川勝平太『経済史入門』日経文庫、2003年9月
- 作者: 川勝平太
- 出版社/メーカー: 日本経済新聞社
- 発売日: 2003/09
- メディア: 新書
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- 日本の経済史を、海洋に囲まれているという国土の地理的特殊性を背景に論じている
- シュンペーターの経済成長に対する見方である、さまざまな要素をつなぎあわせて新機軸をつくりだすという視点から改めて歴史像をとらえ直していること
○序章「経済史への招待」
- 西の辺境であるイギリスに最初の資本主義が、また東の辺境である日本にアジアでは最初の資本主義が生まれた。この両国家は海洋に囲まれているという共通性を持っている。
- 日本が中国から経済的に独立した転機は、幕府による公鋳と中国からの輸入銭の駆逐である。これに対し清代中国では銅銭が払底し、日本からの銅輸入を行うこととなった。
- 欧米諸国はイギリスが工業化に成功後、保護関税政策をとることで自衛に努めたが、日本は関税自主権がないため裸同然の状態であった。しかし、在来産業を中心として成長を遂げていった。それは、木綿・生糸・砂糖・茶などの国際商品(アジアにおける物産)をすでに自給できる体制を持っていたところによる。
- ヨーロッパにおいても江戸時代の日本でも、アジア物産の輸入代替を行うことが大きな課題であった。これについて、比較的広大な土地と希少な人口であったヨーロッパでは資本集約による産業革命を、また比較的狭い国土に多くの人口を抱えていた日本では、限られた土地に肥料と労働力を投入するという勤勉革命(速水融)をもって行うこととなった。
- 日本は、結果的に生糸・砂糖・茶について、中国やインドといったアジア諸国との競争に勝ち、木綿ではイギリスと市場を住み分けすることができた。いわば日本の経済成長はアジア間競争に勝利したことがその要因として大きい。
ブローデルの一連の業績にもみられるように、その国の持つ国土や地理的条件、周囲の国々との関係が経済的な営みにおいて決定的な力を握っている。この著作では、とりわけ海洋に囲まれているという特殊性、アジア諸地域との経済的関係に着目しアジア最初の資本主義国となった要因を研究している。
ただし、新書版でもあり、丹念な実証の過程をみることはできず、全体像をサーヴェイするにとどまる。
所与の諸条件を組み合わせ、いかに新機軸を作り出すか、これについては若干理論だけが前に出ており現実の取り組み、日本の特殊性というところまで読み取ることは難しかった。
偶発的な、あるいは特殊な諸要素が経済史において決定的なポイントであることは事実。しかし、無理に理論へのあてはめをしてしまう本書のようなスタイルより、慶応大学における実証的な取り組みの方が自分にとってはよりしっくりとくる。著者は、理論的枠組の不在を問題意識として掲げるが、無理に長期の歴史をある枠組でくくる理論は分かりやすいように見えて、かえって現実社会の処方箋としては大味過ぎると言えないだろうか。
シュンペーターの枠組についても全くその通りと思われる。念頭におくべき「原理」ではあるが、個別事象を説明する「理論」として使おうとすると大味感=それでまとめてしまうとかえって個別性が埋没してしまうのではと感じる。