古井戸秀夫『歌舞伎入門』岩波ジュニア新書、2002年7月

歌舞伎入門 (岩波ジュニア新書)

歌舞伎入門 (岩波ジュニア新書)

■読むきっかけ

  • 歌舞伎鑑賞にあたっての基本的な視点を身に付けること
  • 見所についての作者なりの見方を知りたい

■内容【個人的評価:★★−−−】
○第一章「歌舞伎とはどのような演劇なのでしょうか?」

  • どのような演劇なのか理解するために三つのキーワードがある。
    • 1.顔見世
    • 2.かぶき
    • 3.大芝
  • 顔見世は旧暦の十一月、寒いさなかに行われる。現在では、歌舞伎座が十一月、京都南座が十二月に行う。京都南座の興行は旧暦の十一月に当たる。
  • 歌舞伎役者は一年毎の専属契約を結ぶ。顔見世は、契約した役者が勢ぞろいする場である。
  • 歌舞伎の台本は、戯曲と異なり、すべて台本のせりふやト書きが役者の名前で書かれる。
  • 場面はいっぱいあってもテーマは同じ、悪役によって乱された世の中が、善人の働きにより回復し平和が訪れるというもの。ただし、単純な勧善懲悪ではなく、端役の悪は滅びても巨悪は残るというものである。
  • 一番目の大詰めには神霊が現れる。市川團十郎の『不動』などはその代表である。
  • 顔見世には必ず雪の場面がある。しかし、その中に梅や桜が開き、春を呼び込もうとしていた。
  • 「かぶき者」は徳川の平和な時代に生まれた。無頼の輩が徒党を組み、浮き世で命を軽んじるものたちを「かぶき者」と呼んだ。まっすぐには生きることのできない者たちである。
  • 幕府は、遊郭と芝居を一定の地域に囲い込んだ。
  • 歌舞伎は一役で魅せるところが西洋の芝居とは異なる。歌舞伎では、同じ主役が、悪人であったと思っていたら善人であった(ぶっかえり、もどり)、正体を隠していた者が正体を顕した(見顕し、名乗り)といった趣向で楽しませている。

○第二章「歌舞伎の歴史」

  • 出雲の阿国が歌舞伎踊りを始めて踊ったのが慶長八年(1603年)である。その後百年間は歌舞伎「誕生」の時代である。
  • 次の百年は、野外劇場から室内劇場になり、花道が作られたり、『娘道成寺』『忠臣蔵』など代表的な作品が生まれた。
  • その次の百年では、鶴屋南北の『四谷怪談』、河竹黙阿弥の『白浪五人男』など歌舞伎は洗練されていった。
  • まず女形が若衆歌舞伎から生まれ、ついで立役、敵役が生まれ、元禄歌舞伎で定着した。
  • 歌舞伎では舞踊を「所作事」という。所作とは物まねのことである。
  • 歌舞伎と人形浄瑠璃はお互いに切磋琢磨していった。近松人形浄瑠璃は大成し、その死後、表現力を増すために人形を三人使いとするようになった。大坂の竹本座で、竹田出雲、並木宗輔、三好松洛の三人が『義経千本桜』(延享三年(1746年))、『菅原伝授手習鑑』(延享四年(1747年))、『仮名手本忠臣蔵』(寛延元年(1748年))を作った。この三大名作はすぐに歌舞伎に取り入れられた。
  • 昭和41年に国立劇場ができる。これは明治以来の演劇改良運動の悲願の結晶。「通し狂言」の上演を目的とした。国立劇場は、三代目市川猿之助と五代目坂東玉三郎というスターを生んだ。

○第三章「歌舞伎の表現」

  • 弁天小僧の決め台詞は有名だが、こうした芸というものを家の内部で伝承していった。
  • 見得、立ち廻り、だんまりといった演技がある。

○第四章「歌舞伎の作品(1)純歌舞伎」

  • 以下の種類がある。
    • 1.純歌舞伎:歌舞伎のためのオリジナル作品
    • 2.義太夫狂言人形浄瑠璃から移入した作品
    • 3.松羽目物:能から移入した作品
  • 江戸の荒事の代表的な、『暫』、『曽我の対面』、『助六』がある。
  • お家騒動物としては『先代萩』、『鏡山』がある。
  • 鶴屋南北は三つのジャンルを確立した。
    • 1.生世話
    • 2.悪婆
    • 3.怪談狂言
  • である。
  • 一方、河竹黙阿弥白浪物、『白浪五人男』、『三人吉三』など。

○第五章「歌舞伎の作品(2)義太夫狂言と松羽目物」

  • 義太夫狂言としてはさきにあげた代表作三本がある。
  • 松羽目物として『勧進帳』、『土蜘蛛』がある。

■読後感
やはり次は顔見世の『暫』や松羽目物として『勧進帳』を見てみたい。(11月以降か)