橋爪大三郎『はじめての構造主義』講談社現代新書、1988年5月

はじめての構造主義 (講談社現代新書)

はじめての構造主義 (講談社現代新書)

■読むきっかけ

  • 現代思想のキーワードでもあった構造主義とは一体何だったのか。改めて全体を俯瞰するとともに、現代に生きる我々にとっての意義を確認したい

■内容【個人的評価:★★★−−】

○第一章「「構造主義」とは何か」

  • 学生時代、構造主義は「流行り」だった。しかし、よく見ると難解だったり、いろいろな分野に関係していたり、と一筋縄では行かない。そもそもフランスで構造主義がブームになったのは1950年代の後半だった。
  • レヴィ=ストロースの名前が有名となったのは、『悲しき熱帯』というエッセーやサルトルとの論争である。
  • サルトルが人びとにアピールしたのは、一人ひとりが歴史にかかわることを説いたためである。人間の存在自体が不条理であり、どうせ理由がないのであれば歴史に身を投じることにかけてみようというわけである。
  • ところが構造主義はこれに対してノーと言った。そもそも歴史とはヨーロッパ人の錯覚に過ぎないとしたのである。サルトルはこれをニヒリズムであるとし、反人間主義であるなどいう評価がなされるようになった。
  • しかし、構造主義こそは人間主義であると思われる。人類学や言語学の方法を使って異なる文化に属する人びとがお互いに対等と認め合う素地を作ったのである。
  • 現代思想構造主義とともに始まった。しかし、先行者としてのフェルディナンド・ソシュール、人類学者のマルセル・モースは構造主義を語るうえで外すことができない。
  • 構造主義を理解するには、レヴィ=ストロースの歩みをたどること、そしてレヴィ=ストロースに至る学問的系譜をたどることが必要である。

○第二章「レヴィ=ストロース構造主義の旗揚げ!」

  • 1955年の『悲しき熱帯』は不思議な魅力にあふれている。文章がすばらしく映画を見るようである。しかし、それよりも帝国主義植民地主義の崩壊を告げる本でもあったという意義が大きい。
  • 彼のメッセージは一言でいうと、「未開人だ野蛮人だといわれる人々が、じつは理性的な思考を行っている」ということである。
  • ふつう人類学者は自分のフィールドを持ち、何年もそこで研究を行うが、レヴィ=ストロースは、サンパウロ大学へ赴任して行ったフィールド調査が唯一のものである。
  • 20世紀初めのジュネーブに天才言語学ソシュールがいた。さまざまな言語の母音の変遷をたどり、未発見の母音があるはずだと予言し、それが後の研究により裏付けられた。
  • ソシュールは、言語の研究においてはその歴史を見るのでなく、ある時点に釘付けにした言語秩序(共時態)を対象とし、その中でも人々が共通に持っている規則的な部分(ラング=記号の秩序)を対象にするべきだとした。
  • その研究の結果、次のことが分かった。まず、言語は実質的な世界に基礎を置いているのかという点では「否」である。それは、言語によって対象世界の切り取り方が変わることから論証される。(日本語には水と湯があるが、英語にはwaterしかない、など。)
  • 言葉が実物を指しているのでなく、言語が勝手に世界を切り取っているのである。
  • 言語の体系の中には実態とのかかわりではなく区別しかない。
  • 言葉は、意味するもの(シニフィアン)と意味されるもの(シニフィエ)から成り立っている。この言葉や記号がいかなるものかは、記号システム内部の論理のみに基づいて決まるとした。
  • レヴィ=ストロースはこの考え方は、言語だけでなく、人間の文化一般を説明することに使えるのではないかと考えた。
  • 1920年代は、マリノフスキーを始めとする人類学者が現地に入り込んで詳細な調査報告をまとめるようになった。そこでは、まず社会の基本構造である親族がどうなっているのかを明らかにするというのがスタイルであった。マリノフスキーの人類学は機能主義とも名付けられる。機能主義以前の人類学が、未開とは文明に至る途上であり、文明に比べ欠けたところがある、という視点をとっていたのに対し、機能主義では、いろいろな習慣や制度は、その社会において何らかの役割を果たしてきたはずだという視点を持つ。
  • 構造主義は機能主義の見方に近いが、機能一転張りで説明することはしない。たとえばインセスト・タブーが未開社会にはありたしかに遺伝などの機能面から説明することはできるが、イトコの一方は婚姻相手として良いが片一方はいけないとする習慣は説明できない。こうしたことから機能主義には限界があるのではないかとしたのである。
  • まだヨーロッパ中心的な考え方の残る機能主義を批判するためには、親族に関する理論を確立することがもっとも有効であるとレヴィ=ストロースは考えた。
  • マルセル・モースはクラ交換を研究した。貝殻を交換するのだが、そこから分かってきたことは、価値のあるものだから交換するということではなく、交換されるから価値があるという逆説である。交換のシステムができあがると、はじめて価値が認識されるようになる。
  • レヴィ=ストロースは結婚を女性の交換と考えた。インセスト・タブーは女性を交換することにつながり、それは女性を価値あるものとして捉えることとなる。
  • レヴィ=ストロースはこの考え方を一般化し、交換があるから社会があるのだということを説いた。そして経済とは、この交換の特異な形式に過ぎないとしたのである。

○第三章「構造主義のルーツ」

  • 構造主義に一番縁が深いのは言語学や人類学ではなく、数学である。このつながりが日本ではきちんと説明されず、かえって構造主義を分かりづらいものにしてしまっている。
  • 構造主義はそれまでのヨーロッパの知の根幹を揺るがした。
    • 1.テキスト:テキストはどうとでも読めるという考え方を示した
    • 2.主体:個を主体とするのではなく、主体を超えた無意識・集合的な現象が重要とした
    • 3.真理:真理は制度であり、唯一の真理などない
  • この「3」真理について、数学を拠り所としていたが、数学とても制度に依存しており、絶対的なものではなく、構造に過ぎないということがわかったのである。
  • レヴィ=ストロースは、主体の思考の手の届かない彼方に集合的な思考の領域が存在し、それが「神話」であるとした。

○第四章「構造主義に関わる人々:ブックガイド風に」

■読後感
最後に近づくほど読み下しは難しくなってくるが、自分できちんと理解したことをできるだけ分かりやすく叙述した良著である。