黒崎誠『世界を制した中小企業』講談社現代新書、2003年12月

世界を制した中小企業 (講談社現代新書)

世界を制した中小企業 (講談社現代新書)

■内容【個人的評価:★★★−−】

  • 日本には300万以上の企業がありその99%は従業員300人以下の中小企業である。中小企業は日本の雇用の88%を占める。
  • これまで中小企業というと、大企業と比べて資本、販売、技術などでハンディを背負っており、低賃金や長時間労働により補っているとされていた。しかし、中小企業はその存在感を強めつつある。世界トップの企業もある。

○序章「「世界一の中小企業」とは何か」

  • 製造業の付加価値のシェアは32.4%にもなる。また製造業への就業者率も20.0%とドイツに次いで高い。
  • ナノテク分野で、超微細な部品を作ることに成功した企業も多い。
  • 日本において、シェア世界一を実現している中小企業は100社を超えている。それら企業の製品はおおむね企業向けであり、一般消費者の目にはあまり触れる機会がない。
  • 日本政策投資銀行は、こうしたハイテク型企業を四種類に区分した。
    • 1.イノベーション型研究者集団→バイオ、レーザー、特殊表面処理
    • 2.専門技術深耕型中堅企業→理化学機器、精密機械
    • 3.周辺ノウハウ蓄積型中小企業→伝統的な産業を基盤とする。歯車など
    • 4.熟練技術者集団型町工場→熟練工の技能を生かしたもの。造船関連産業など
  • モノづくりはじつに多種多様であり、和菓子のあんこを作る機械などがある。
  • ベンチャー企業は正式な産業分類ではない。1000社を超えることは確実である。
  • キーワードは、「3S」と「3K」である。3Sは、(チャレンジ)精神、創意、先取り主義である。また3Kは、こだわり、小回り、顧客第一主義である。

○第一章「大手に勝って圧倒的シェアを掴んだ企業」

  • 医療用の明るく、影を作らないガラスを岡本ガラスが開発した。これにより虫歯治療のスタイルが一変した。
  • もともと岡本ガラスは信号ガラスや鉄道ガラスを作っていた。一大転機が訪れたのは「割れないガラス」と「微妙な色を忠実に再現できる反射鏡」の開発である。
  • 岡本ガラスは表面蒸着技術を外注から自己生産に切り替え、新しい技術を開発した。
  • 岡本ガラスは資本金約2億円、従業員250人。売上は年40〜50億円である。社員の2割を研究開発にあてている。また30年以上前から東京工業大学と交流を続けている。
  • 前川製作所、船の冷凍庫で世界のシェアの8割を占めている。冷やすのに中心となる技術はコンプレッサーであるが、小型で強力な冷凍能力を持つスクリュー型コンプレッサーの開発に成功した。
  • 冷媒として以前はアンモニアが使われていたが悪臭を発するためフロンへの切り替えが進められた時期があった。そんな時期にも、前川製作所アンモニアにこだわり、フロン全廃を受けて前川製作所の技術に脚光があたることとなった。
  • 技術者を大切にし、92歳の技術者もいる。
  • シンコーは原油ポンプメーカーである。このポンプは、タンカーが運んできた原油を陸上の精製施設にくみ上げるのに利用される。
  • もともとは二次大戦当時の軍需産業であった。
  • このほか、千分の一ミリの針を製造するオルガン針、ボール製造のモルテン、世界の船のスクリューの三割弱を製造するナカシマプロペラなどの会社がある。

○第二章「新製品で世界市場の激戦を制した企業」

  • 時計などに利用される蛍光体で世界市場をほぼ独占する根本特殊化学がある。最初は、灯火管制下で夜光塗料が売れるのではないかともくろんだが、ほとんど売れなかった。
  • しかし、軍隊の夜光時計で成功し、一生寝て暮らせる利益が転がりこんだ。
  • 当時の原料はラジウムで微弱ながら放射線を発していた。いろいろな会社が取り組んだが、放射線ゼロを実現したのは根本特殊化学だけであった。現在は紙幣にも蛍光技術が適用されるようになった。
  • フロントスポイラーやサンルーフバイザーを製造する技研。カーアクセサリは日本独自のもの。レーザーにより作られ、熟練工により細部が加工される。
  • 世界のプラネタリウムの半分を作っている五藤光学研究所。130人の社員のほとんどが宇宙好き。
  • このほか、珊瑚を原料とした浄水剤を開発したマリーンバイオ、世界一の猟銃メーカーであり、鉄砲鍛冶の歴史も持つミロク、W杯用の笛を作る野田鶴声社などがある。

○第三章「不屈のモノづくり魂でライバルの先を行く企業」

  • 油圧ポンプの心臓部を作るタカコ。このポンプを世界で唯一生産する。最初は米軍用の特殊工具を社員1名とつくっていた。旧知のアイントホーヘン大学教授と会い、アキシャルポンプへの道を歩むこととなった。
  • 世界ではこのミクロン単位の製品を低価格で量産することは無理と見られていたが、それをやってのけ、ボルボが優秀さを評価した。
  • ほとんど賭けに近かったがドイツのハノーバーメッセに出展。京人形をおいて人目を引き、大手企業と商談までこぎつけた。
  • ねじを作る竹中製作所。1000分の一ミリの高精度ねじと、海の中でもさびない防錆ねじがその製品である。
  • 紛体を作る奈良機械製作所。コピーや化粧品など。チームワークの良さが特徴。技術を学ぶことを通じ、仲間意識を育てている。
  • 紐掛け機械のストラパック。もともと荷役の会社だった。機械油で濡れてしまうことが従来型だったが改良した。製造や開発のトップに営業経験者をあて顧客の声が届きやすいようにしている。
  • このほか、ターボ分子ポンプの大阪真空機器製作所、納豆・豆腐などの太子食品工業などがある。

○第四章「ニッチ分野で完勝した「攻めの経営」の企業」

  • 織物機械の木地リード。金沢で操業、加賀友禅などの機械。北陸では繊維産業が衰退し、一時織機が激減した。
  • 開発途上国には真似のできない高性能のリードを作った。研究に力を入れた。
  • 歯車の計測機という専門的な分野で不動の地位を保つ大阪精密機械。自動車の騒音を低減させた。
  • 魚群探知機の本多電子。初心者でも操作できるところが売り。また安いものは4万円からある。
  • 真空管は不向きであったためトランジスタを使おうと思ったが、これがなかなか手に入らず、秋葉原に買い付けに行くこともあった。
  • 船と船が接触するときや岸壁に接岸するとき船を傷つけないような防舷材を作るシバタ工業。ほかの会社が思いつかないようなところに目をつける。船体の形状に合わせた加工技術が売りである。
  • このほか、切削工具の日進工具、小さなベアリングのSKマイクロプレシジョンがある。

○第五章「卓越した技術で大手の「横請け」になった企業」

  • レーザー加工の東成エレクトロビーム。タングステンモリブデンなど溶接の難しいレアメタルの溶接を可能にした。技術を担う人材の育成に力を入れてきた。中小企業の間のネットワークづくりにも努め、「TAMA産業クラスター」となった。
  • 高電圧フィルムコンデンサーのタイツウ。パソコンや大型の薄型テレビに適用されている。
  • メッキの三矢。数千分の一ミリの狂いもない。宇宙ステーション内の実験を正確に行う素地を作った。
  • このほか、ダイカストの中日本ダイカスト工業、精密機械の金型をつくるキメラ、大型プラスチック金型の共和工業、電圧プローブ機器のスタック電子などがある。

○第六章「研究実績をもとに急成長するベンチャー企業

  • 遺伝子機能の解明を行う生体分子計測研究所。走査プローブ顕微鏡を使う。
  • 研究用のクリスタルを作るクリスタルシステム。
  • 鮭の白子でつくったバイオ食品の日生バイオ。
  • このほか、1000兆分の1アンペアを測定する日本マイクロニクスブルートゥースのソフトウェアを作ったオープンインターフェース、セキュリティソリューションのアズジェントなどがある。