船山泰範 平野節子『図解雑学 裁判員法』ナツメ社、2008年6月

裁判員法 (図解雑学)

裁判員法 (図解雑学)

■内容【個人的評価:★★★−−】

  • 裁判員裁判は、平成21年5月21日以降に起訴された事件について行われる。
  • 裁判員にとってわかりやすくするため、あらかじめ論点を整理し、提出した証拠を確認するための公判前整理手続が必須である。
  • 裁判員裁判は、3人の裁判官と、国民の中からくじで選ばれた6人の裁判員が共に事実認定と量刑の両方を判断するという日本独自の方式である。

○第一章「裁判員に選ばれた!」

  • 裁判員は、衆議院議員の選挙権を持っている人、つまり20歳以上の日本国民からくじで選ばれる。
  • 裁判員として選任されるまでには二つのステップがある。
    • 1.裁判員候補者としての選定
    • 2.裁判当日、候補者の中から裁判員として選任
  • 裁判員候補者としての選定は以下の手順による
    • <前年>
      • 1.地裁から自然に必要な裁判員候補者の人数を市町村選挙管理委員会に通知
      • 2.市町村の選管は、裁判員候補者予定者名簿を地裁に送付
      • 3.地裁には裁判員候補者名簿を調製
      • 4.地裁は裁判員候補者に対し名簿に記載されたことを通知、調査票も送る
    • <当年>
      • 1.地裁は呼び出すべき裁判員候補者をくじで選定
      • 2.地裁は裁判員選任手続きの期日の6週間前までに裁判員候補者に呼び出し状を送達
      • 3.地裁は、裁判員候補者に質問票を送って辞退事由の有無の確認、不公平な裁判をする恐れがないかの判断に必要な質問をする
      • 4.裁判員候補者は質問票を返送または持参
  • 最高裁判所では11月〜12月にかけてコールセンターを設置し、通知を受け取った人に対する質問に回答できるような体制作りをする。およそ15〜20万件のコールがあることを想定。
  • 裁判員選任手続きの期日に出頭することが必要であるが、呼び出しに応じなければ10万円以下の過料を支払わなければならない可能性がある。過料なので刑罰ではなく、刑法、刑事訴訟法は適用されない。
  • 裁判員になれない人は以下のとおりである。
    • 1.警察官、裁判所職員、裁判官・検察官・弁護士、大学の法律学の教授・准教授、都道府県知事・市町村長・特別区長、国会議員国務大臣、国の行政機関の幹部職員、禁固以上の刑にあたる罪について起訴されその被告事件の終結にいたらない人、逮捕または勾留されている人
    • 2.事件の関係者
    • 3.心身の故障(欠格自由に相当)など
  • 補充裁判員は、裁判員が出頭できなくなったとき、裁判員に選任される(最大6人)
  • 裁判員は原則として辞退できない。しかし一定の事由があれば辞退できる。
    • 1.70歳以上の人
    • 2.都道府県・市町村議会の議員(会期中のみ)
    • 3.学生、生徒
    • 4.5年以内に裁判員や検察審査員などの職務に従事した人、及び1年以内に裁判員候補者として裁判員選任手続きの期日に出頭した人
    • 5.重い病気や傷害などやむを得ない理由がある人
  • 選任手続きは公判当日に行われる。裁判員候補者−辞退が認められた人−不選任とされた人から6人がくじで選ばれる。不公平な裁判をする、審理の妨げになるなどの理由から選ばれなかったとき、裁判所はその理由を明示しないことができる。
  • 裁判員には日当(裁判員:上限1万円、裁判員候補者:上限8千円)、旅費(交通費)、宿泊料(8,700円または7,800円)が支払われる
  • 裁判員裁判は連日的開廷となる。1日あたり5〜6時間でおそらく3日間。
  • 裁判員裁判は法の解釈を変えられるか?基本的には、裁判員の関与する判断は、事実の認定、法令の適用、刑の量刑であり、関与しない判断としては法令の解釈、訴訟手続きに関する判断、免訴・公訴棄却等の終局裁判となっている。ただし法の解釈についての疑義、あるいは立法そのものの疑義を意見として申し立てることはできる。
  • 刑事手続きには平成19年の刑事訴訟法の一部改正により被害者や遺族が参加できることとなった。しかし、被害者の論告・求刑は証拠にはならない。裁判員は、感情に引きずられることなく、それらの言葉の中から真相究明の手がかりをつかむことが大切である。
  • 証拠調べの最後の段階で被告人質問がなされる。黙秘権は保障されている。被告人がうその供述をしても具体的やり取りの中で真実を見抜くのが名裁判官(裁判員)である。
  • 裁判員の良識に富んだ質問が真実を明らかにする可能性がある。遠慮なく被告人に質問するべきである。
  • 2日目には量刑がほぼ確定することとなるが、決まったことが意に沿わないからといって辞退するのはどうか。反抗的な態度や法廷内の暴力などを行うと解任されることとなるが、そんなことをせず、量刑の段階で酌量減刑などを主張したり執行猶予の可能性を論ずることもできるのだから、権利を放棄してしまわないほうが良い。
  • 裁判員としての体験を表現することが許される場合と許されない場合がある。許される場合としては、公開の法廷で見聞きしたことなどである。許されないのは評議の秘密、その他職務上知り得た秘密(被害者のプライバシーに関すること)など。
  • 裁判員裁判は、殺人罪、強盗致死罪などの重大な犯罪を裁く。第一審で死刑を言い渡すのは年に10数人であり、それほど多くはない。評決は多数決であるが、裁判官・裁判員それぞれ1人以上の意見が含まれていなくてはならない。
  • 裁判後に暴力団員から脅されることはないか?当該被告事件に関し、面会・電話・文書の送付などあらゆる接触を禁じている。威迫の行為をした者は2年以下の懲役または20万円以下の罰金となる。

○第二章「裁判員が扱う事件はコレだ!」

  • 対象となる事件
  • ただし、裁判員に危害が加えられる虞のある事件は対象から外される。
  • 1億354万7456人の選挙人名簿登録者から、候補者として選ばれるのが155,550人〜311,100人、裁判員に選ばれるのが18,666人、つまり裁判員に選ばれる確率は5547分の1である。
  • 裁判員に選ばれる確率がもっとも高いのは大阪と千葉地裁、もっとも低いのは金沢地裁である。
  • 裁判員は地裁で1審だけ行われる。実施場所は全国で60地裁(支部を含む)、自分の地域で起こった事件を裁くこととなる。
  • 医療過誤については専門的な知識を必要とすること、業務上過失致死傷罪という刑罰が軽い犯罪であるため対象とならない。

○第三章「これだけは知っておこう」

  • 刑事手続きは、
    • 1.捜査(警察官、検察官、検察事務官
    • 2.公訴の提起
    • 3.公判
    • 4.刑の執行 の順で進む。
  • 公訴は、検察官だけが起訴できる。(国家訴追主義、起訴独占主義)
  • 公訴を行わない(起訴猶予)こともできる。
  • 1年間に検察官が下した処分は以下のとおり
    • 1.公判請求:13万8,029人(6.6%)
    • 2.略式命令請求:66万101人(31.8%)
    • 3.家庭裁判所送致:19万4,609人(9.4%)
    • 4.起訴猶予:99万1,401人(47.7%)
    • 5.不起訴処分:9万2,637人(4.5%)
  • 裁判員制度では、裁判の充実・迅速化のため、公判前整理手続が行われる。公判前整理の内容は以下のとおりである。
    • 1.訴因または罰状を明確にさせる
    • 2.主張を明らかにし争点を整理する
    • 3.証拠調べの請求をさせる などである。
  • 審理の始まりは以下の流れである。
    • 1.被告人に対する人定質問
    • 2.起訴状朗読
    • 3.黙秘権告知
    • 4.罪状認否
  • 有罪と無罪:「疑わしきは罰せず」「疑わしきは被告人の利益に」のルールがある。
  • 量刑:犯人の年齢・性格・経歴・環境、犯罪の動機・方法・結果・社会的影響、犯罪後における犯人の態度をふまえて決められる
  • 殺人罪に科される刑罰としては、10年以下の懲役が最も多く、死刑は約1%である。
  • 判決書は主文と理由からなる。
  • 裁判員裁判控訴審、これは刑事訴訟法で言うと見直し審に該当する。1審の充実化が図られている(当事者主義の採用)ので、控訴審は単純に1審の手続きを繰り返すのは不適当と考えられている。

○第四章「刑事裁判が必要なわけ」

  • そもそも刑事裁判に裁判員制度を導入するようになったのは、
    • 1.司法に国民の意見を反映させるため
    • 2.裁判官の国民軽視の姿勢を正すため
    • 3.裁判所関係者の横柄な態度を改善するため である。
  • 実は大正12年に陪審制度が導入されていた。第二次大戦後は、裁判所法に陪審制が可能な旨定められていたが、実現しなかった。陪審制度では、陪審員は事実認定のみ行い量刑は行わない。また全員一致が原則である。しかし裁判員制度では、量刑も行う。評決も多数決である。

○第五章「どんな場合に犯罪となるか」

  • 悪いことすべてが犯罪ではない。刑法に規定されていないものは犯罪とならない。
  • 以下の四つの段階を満たしていることが必要
    • 1.人間の行為であること
    • 2.刑法に規定する要件に該当すること
    • 3.違法性があること→正当防衛・緊急避難などやむを得ない場合は違法性を満たさない
    • 4.有責性のあること→心神喪失は犯罪要件を満たさない
  • 不作為も対象となる。
  • 14歳未満は無罪

○第六章「刑罰とはどんなもの」

  • 刑罰の種類は以下のとおり
    • 1.生命刑−死刑
    • 2.自由刑−懲役、禁固、拘留
    • 3.財産刑−罰金、科料、没収
  • 刑罰の目標は
    • 1.人格を否定するような残虐なものであってはならない
    • 2.究極的には納得してもらえるもの、つまり将来役立つ内容のある矯正処遇でなければならない
  • この観点2の内容からすると、死刑は刑罰としては行うべきではないということになる。
  • 無期懲役終身刑とは異なる。改悛の状、少なくとも10年は懲役を受けている、行政官庁(地方更生保護委員会)の判断があること、これらがそろった場合、仮釈放できる。
  • 懲役と禁錮の違いは何か。懲役は、刑務作業が義務であるが、禁錮は自由が奪われるだけである(ただし、申し出により刑務作業ができる。)
  • 受刑者の収容には一人約280万円かかる。作業報奨金は一人一カ月平均で3,954円受け取れる。
  • 有罪判決でもっとも多いのは罰金刑である。平成18年において、有罪確定者は73万8千人で、うち65万人が罰金を、略式手続として科された。その大半は道路交通法違反である。
  • 刑務所の食事
    • 1.朝:ごはん、ねぎとわかめの味噌汁、まぐろ缶詰、梅干し
    • 2.昼:ごはん、味噌汁、肉じゃが、サワラ塩焼き、桃の缶詰
    • 3.夜:ごはん、けんちん汁、大根のあさり煮、めかぶ、ヨーグルト
  • サラリーマンの食事
    • 1.朝:菓子パン一個、コーヒー
    • 2.昼:コンビニ弁当、コーラ
    • 3.夜:とんかつ定食、缶ビール
  • 殺人:年間1,300件、受刑者は増え刑務所は過剰収容となっている。
  • 仮釈放:更正の可能性が高い場合、刑期満了以前に出所すること。再び犯罪を犯したときは、仮釈放の期間をすべてやり直し、さらに新しい刑期に服する必要がある。
  • 少年犯罪は増大・凶悪化という誤った認識が広まっているが、実際は増大しておらず、凶悪化もしていない。
  • 刑法犯の再犯率:38.8%、懲役を終えて出所した人に対して社会は冷たい。

○第七章「裁判を傍聴しよう」

  • 傍聴は申し込みが不要である。少年審判は非公開となっている。
  • 傍聴する事件の探し方:裁判所の廊下に開廷表が表示される。