丸田一『ウェブが創る新しい郷土』講談社現代新書、2007年1月

ウェブが創る新しい郷土 ~地域情報化のすすめ (講談社現代新書)

ウェブが創る新しい郷土 ~地域情報化のすすめ (講談社現代新書)

■読むきっかけ

  • 自らも庁内SNSのメンバーであるが、これをどのように利用するか、どんな効果があるかということについて必ずしも定見を持っているわけではない
  • さまざまな取り組みの事例を通して学びたい

■内容【個人的評価:★★−−−】

  • 郷土というものは、内面に宿る情景であって地図上に表せるものではない。したがって、郷土とは何かは本人しか発することはできない。
  • 郷土はアイデンティティであり、心の拠り所である。
  • 郷土を捨て、都市を目指す時代は終わった。我々の活動範囲が都市にとどまらずWeb空間に広がりつつあるからである。

○第一章「地域という幻想」

  • 人口膨張と合併などの影響もあり、地域の境界が消滅してしまった。
  • 中心市街地が唯一のアイデンティティであったが空洞化することで賑わいが消えてしまった。
  • 地域の実態は希薄化し、利潤も大都市に還流するというシステムが形づくられている。

○第二章「地域情報化とは何か」

  • 都市計画にはゾーニングという手法があり、地域をいくつかのゾーンに区分し、ゾーンごとに用途や建築形態を制限するものである。
  • しかし、都市の拡張を強く志向した結果、「規制は厳格なのに無秩序」と評されるような状態となった。
  • 現在都市づくりの思想として「コンパクト・シティ」の考え方が現れた。徒歩で移動できる空間に職住近接を実現するものである。これはまちづくり三法の見直しで都市再生のゴールに掲げられた。「経済の論理」から「生活者の論理」に方向を転換するものである。
  • 都市計画が空間のデザインとすれば、地域情報化は集団のデザインである。
  • 地域情報化は電子自治体のことではない。これは行政の情報化であり、地域の情報化そのものではない。
  • 行政情報化は1兆円程度の市場規模があり、現在レガシーシステムからの脱却を目指して推進されつつある。一方地域情報化は、住民やNPOが進めており、生涯学習、起業、雇用マッチング、子供の安全確保など地域の課題を解決しようとしている。
  • ネット上のコミュニティは「荒らし」により簡単に崩壊してしまう。こうしたWebの闇を「信頼」により克服しようというのがプラットフォームの発想である。参加者を、地域に係わりのある者に限定し、何かあったら責任を追及できる程度の顕名化を行う。これにより協働行為も成立しやすくなる。
  • 先進事例としては、インターネット市民塾、住民ディレクター、ネットデイ、シニアSOHOなどがある。それぞれは、地域の課題を見据えて活動を行っている。
  • 地域SNSなどはなぜか西高東低の傾向にある。

○第三章「対話の共同体」

  • シニアSOHO普及サロン・三鷹経済産業省の認定を受け、500万円の補助金をもとに市民向けパソコン講座を行った。リタイアして戻ってきた人や主婦などにビジネスで活躍する機会やコミュニケーションの場を提供している。
  • 富山インターネット市民塾:生涯学習を行っている。e−ラーニングを提供する。学びのフリーマーケットという場である。誰もが講師になることができ、教えることを通じて学んでいる。
  • 鳳雛塾(佐賀):起業支援のプラットフォーム。6年間で280名の塾生が巣立った。知識の循環ができるシステムを作っている。

○第四章「想像の共同体」

  • テレビは見るものでなく使うものという発想の転換を行った取り組みがある。住民がディレクターとなる。
  • 地域SNS。熊本県八代市の「ごろっとやっちろ」ミクシィと同じ招待制。
  • ミクシィでは4万もの地域関連コミュニティがあるが、地域SNSの方がコミュニティとしては優れている。

○第五章「Web2.0以降の地域」

  • Web2.0では現実がWeb空間に展開されるのが大きな特徴である。すべての主体が発信の主体である。

■読後感
概念としてはWeb上のコミュニティの意義付けについては理解できた。
しかし、より知りたかったのは、継続的な活動とするためにどんな工夫をしているか、どんな効果がもたらされているかということであるが、これについては概要しか把握できず、具体的な姿は見えなかった。