田中森一、筆坂秀世『どん底の流儀』情報センター出版局、2008年3月

どん底の流儀

どん底の流儀

■読むきっかけ

  • 上司が貸してくれた

■内容【個人的評価:★−−−−】
<対談形式>
○序章「我が人生のどん底体験」

  • 田中さんは、許永中とともに石油卸会社・石橋産業から179億円もの大金をだまし取ったとされ、一審、二審ともに実刑の有罪判決が下り、最高裁上告中である。もともと東京地検特捜部のエース検事として鳴らし、1987年に検事を辞めてからは弁護士として「闇社会の守護神」と呼ばれた。一方自分は共産党員の女性とチークダンスを踊り、腰に手を回したことでセクハラと訴えられ、役職を解任され国会議員も辞めることとなった。(筆坂)
  • 自分が逆転無罪になる可能性は0.1%だと思っている。今検察から叩かれているが、検察は自分を育ててくれた。今でも戻って働きたいくらいに考えている。(田中)
  • 人間は一回奈落の底、地獄に落ちなければ本当の味が出てこない。経済的な破たん、大病を患う、投獄される、こんなことを通じて一人前になるのだと思う。(田中)
  • 自分は長崎の平戸という貧しい漁村で育ち、定時制高校に通い、受験のために和歌山へ出て予備校でバイトしながら授業にもぐりこませてもらい、岡山大学に合格した。(田中)
  • 自分も苦学して寒村から進学校の県立伊丹高校に入った。高校卒業後三和銀行に就職したが、カネ勘定に辟易し共産党に入った。銀行時代は、大卒の幹部候補生と高卒の自分とでは扱いがまったく違った。高卒では絶対偉くなれないということを最初から分かっていた。(筆坂)
  • 役所でも学歴差別は歴然としている。(田中)
  • 共産党でも自分のいた政策委員会は共産党の頭脳集団であり、東大、京大がごろごろしている。高卒は自分だけだった。(筆坂)
  • 自分は、学歴差別に腐らず仕事はよくがんばった。東大卒への反骨精神が仕事の原動力だった。(田中)

○第一章「検察に学ぶ−「壁を越える」仕事の流儀」

  • 特捜の仕事が長く、殺人・強盗でなく、経済事件や選挙・贈収賄がらみだった。取り調べの際に、相手は必ず隠そうとする。腹を割って話してもらうために、「逃げ道」を与えることを心掛けていた。女性の被疑者は強い。愛する者を守るためには一切口を割らない。撚糸工連の小田清孝理事長も口を割らなかった。しかし雑談に終始することで何とか話してもらうきっかけを作ることができた。撚糸工連は通産省補助金を受け取るため、古い機械を壊したと見せかけ、じつはそれを東南アジアで売っていた。通産省は知っているくせに、そんな事実があったとは知らなかったと嘘をいった。(田中)
  • 東京地検ではダーティなところに関わることを避けていた。しかし、自分はそうしたところにも飛び込んでいき、捜査の糸口をつかもうとした。当然同僚からは非難された。しかし、同僚たちは純粋培養で世間を知らなさすぎた。(田中)
  • 組織のルールに沿って仕事をするのはたやすい。しかし、達成したい目標があったらときにはルールを破らなくてはいけない。(田中)
  • 共産党では無謬論が前提となっており、基本的な方針について議論もできない。(筆坂)
  • 山田洋行事件では、守屋前次官があそこまで会社を大きくした。それにしては、対価はゴルフ接待やゴルフクラブなど、ずいぶん小さかったのではないか。(田中)

○第二章「闇社会に学ぶ−「死ぬまで切れない」人間関係の流儀」

  • 大きな決断は人には相談すべきではない。検事時代も幹部連中の言うことを鵜呑みにすることはなかった。(田中)
  • 弁護士になってから大きな会社の仕事がどんどん飛び込んできたが、窓口は法務担当が行うため、決裁に時間がかかってしまう。業を煮やして直接トップと話をさせろといったが受け入れられず、結局依頼を全部断った。オーナーで自分で会社を育て上げた人はやはり違う、引き継いだ経営陣は学歴や家柄でポストについている。(田中)
  • 東京ミッドタウンにしても六本木ヒルズにしても闇社会があるから地上げして作ることができた。(田中)
  • 長続きする人間関係は貸し借りの幅を最小にすることだ。(田中)

○第三章「政治家に学ぶ−「心の奥まで覗き込む」人心掌握の流儀」

  • 安倍晋太郎はお金を集める苦労を知っていた。晋三は知らないのではないか。安倍晋太郎は、力はあるが孤独であり信頼のおける人を求めていた。(田中)
  • 年収200万円以下の人が給与所得者のうち22.8%になっている。そんななか国会議員には数多くの特権が認められている。それは、優雅な暮らしをするためではなく、国民のために働いてもらいたいからだということを忘れないで欲しい。(筆坂)
  • 政治家としてすごいのは鈴木宗男だと思っている。あのエネルギッシュさに比べると、共産党の議員はサラリーマンのようなものである。(筆坂)

○第四章「「男を上げる」カネ使いの流儀」

  • 弁護士になった途端、カネがドカドカ入ってきた。これをもって銀座へ行ったりしていると、金持ちはこんな面白い世界を知っているのかと唖然とした。検事時代はカネを忌み嫌っていたが、カネがたくさん入ってきてその魅力がわかるとすばらしいと思うようになった。株で30億くらいの資産は作っていたと思う。インサイダーに近い情報もどんどん入ってきて、1000万円が1億円になる。しかしバブル崩壊で消し飛んだ。(田中)
  • バブル紳士は高卒中卒ばかりで、儲けたカネをばらまいた。しかしIT紳士=ホリエモン村上ファンドは大卒で自分の能力で儲けたと思っており、ため込んだ。自分だけのものにしてしまった結果、誰からも守られなくなってしまった。(田中)

○終章「どん底を超えて生きる」

  • いま、奨学金財団を改めて作りたいと考えている。貧しい人材で夢に向かって努力している人をバックアップしたい。獄中では本を読み、せっかくなのでダイエットする目標を立てている。(田中)
  • どんな世界に住んでいようが、自分の信念を持ち続けなさいといいたい。(田中)

■読後感
これは自分の行為を合理化しているなと感じたところも端々にあったが、オーナーが持っている人間の力やお金を使うことではじめて見えてくる世界など、そのとおりだろうと思われるところも多かった。