一橋総合研究所『「身の丈起業」のすすめ』講談社現代新書、2005年7月

「身の丈」起業のすすめ (講談社現代新書)

「身の丈」起業のすすめ (講談社現代新書)

■内容【個人的評価:★★★−−】
○第一章「身の丈起業」

  • 昔は、起業しようとするのは独立心旺盛な特別な人に限られていた。しかし、現在サラリーマンの給料は40歳前には頭打ちになっている。片道出向や転籍などで40歳過ぎで一回目の定年が来るようなものである。子供を作らない、結婚しないというのは一つの自衛策である。
  • 仕事を「やらされている」サラリーマンは早晩リストラされる。自分はこれもできる、あの仕事は自分にやらせて欲しいといったアピール、売り込みができないとお払い箱である。
  • 積極的な売り込みはある意味起業家としての姿でもある。起業することがリスクというより、サラリーマンを続けることの方がリスクである。いつでも「起業」というカードを切れる状態にしておいた方がよい。
  • バブル期には優秀な融資マンの貸出が不良債権となった。逆に言うと結果から見ると敗者の方が行動は正しかった。
  • リスクとは、煎じ詰めるとお金がどれだけかかるかということである。事業資金が10万円の人と1000万円の人ではリスク許容度が違う。
  • リスク許容度を高めるための方法としては生活コストの削減がある。起業の準備段階では往々にして収入が減る。これを耐えられず生活コストを落とせない人は賭けに近い事業運営をすることになる。身の丈にあったリスクを取っていけばよい。
  • 起業とは、突然何の準備もせずに無茶に始めるものではなく、すぐに始められるようなことから手をつけていくべきものである。「このままでは自分の人生ちょっと不本意だな」と思ったときが始め時だ。

○第二章「起業する前に」

  • 準備期間はリスクを減らすことを第一の目的としたい。まずやるべきことは、誰かにあこがれるということである。目指すべきモデルがあったほうがよい。ただし、それを持ち続けるのは無理である。
  • 人間は二種類の軸で分類できる。
    • 1.すぐ行動するか、考え込んでしまうか
    • 2.詰めが厳しいか、甘いか
  • この二軸で自分を判定し、足りないところは協力を得て補った方がよい。
  • 創業パートナーを探す、これはじっくりやったほうがよい。損得感情だけでなく、「ノリ」を共有できる存在であることが望ましい。
  • 事業をやるうえで、会社としてやるべきことをきめる戦略的な観点と、それを実行に移す戦術的観点がある。どうしても自分中心の世界を作ってしまいがちなので、御意見番がいると心強い。
  • 起業に失敗したときどうするか、というのも大切な準備の一つである。コンサルタントになるというのは方法の一つである。手に職があるというのは重要なことである。
  • 数多くの起業家に接してみて思うのは、何かの理想を目指して起業するのではなく、何かが嫌で起業するケースが多い。嫌なこととは、一つは貧乏は嫌だということ、もう一つは自立したいというメンタルな理由である。
  • 現在は1円起業も可能だが、実際は1000万円はあったほうがよい。貯金や友人親せきからの援助による。こういったサポーターをエンジェルという。
  • 個人的なローンは、起業してからでは難しくなる。企業にいるうちに組んでおこう。
  • 成功する起業家は抜群に頭がよくないといけないのか。そんなことはなくワンパターンの人も多い、逆に言うと芯がしっかりしている方が大切なのかもしれない。
  • 何を勉強すべきか。まず会計を学ぶべきである。自分で帳簿をつける必要はないが、会計はよく知っておくべきだ。会社とは決算書だけで評価されるものだからだ。
  • 世の中で起きるできごとが自分にとってどんな意味をもつのかよく考える習慣を持つべきだ。
  • 長時間労働でなく集中して取り組む、スローモードに染まらないことが大切。
  • 五年後の自分をイメージし、そこに到達できるようにしよう。

○第三章「起業するときに」

  • しばらくの間預金残高は減っていくだろう。この不愉快な期間をできるだけ短くしたい。
  • 形式を整えようとすると余計なコストがかかる。
  • 法人化のメリットは、信用を得られることと、事業リスクが個人の生活に与える影響を最小にするということである。
  • 創業当初は、やることも朝令暮改で変えていかなければならない。そんな方針にもついてきてくれるメンバーが必要である。社長にどんどん反論するタイプは不要だ。
  • 「人・モノ・金」と言われるが、「人・客・金」である。この場合の「人」とは、起業家自身である。そして、客を見つけて金を払ってもらうことがビジネスである。
  • 倒産とは赤字ということではない。黒字でも倒産する。倒産とは金が払えなくなることである。
  • 現金主義が重要。払いはできるだけ先に、受取はできるだけ早く、が基本。
  • 効率のよい会社は、出張旅費の仮払いなどやらない。経費の立替払いも月二回程度である。即座に払うための小口現金もやめた方がよい。管理に時間がかかってしまう。
  • 定義が厳密でないバズワード(ビジネスモデル、コア・コンピタンスなど)を多用すると思考停止状態となるおそれがある。軽く口にする前に、よく考えるような習慣を作ろう。
  • 取締役会を開くことにより、客観的に自分の会社をみる機会としよう。また、期間を決めて、たとえば3年後までに結果が出なければやめようくらいの考えがよい。
  • 社長が従業員の悪口をいうようになったら要注意である。
  • サイボウズは成功した企業であるが、同業他社とは違った要因は、「お客さんに恵まれた」ということである。サイボウズのとった方法は、インターネットダウンロード通販だった。これは今では一般的だが、当時はさきがけだった。これにより、自分でダウンロードするくらいのスキルを有する客層にフォーカスできることとなった。普通はクレームにつぶされてしまうが、客層が選ばれており、しかもいろいろな助言を受けることができた。
  • 起業してしばらく経つと根拠のない自信が芽生え始める。こんなことも重要である。
  • 会社づとめが長くなると、これは誰かがやってくれるだろう、と思うようになる。起業家はどんなことでも嬉々としてやる人の方が向いている。成功した起業家の多くは掃除好きである。
  • 打率は低くても何度も打つことが成功につながる。だが、人間は何回かアウトになると全力疾走しなくなってしまう。
  • 起業直後は自信も過剰になりころっとだまされたりする。

○第四章「会社を大きくしたくなった時に」

  • 最初の時期はがむしゃらに突っ走るが、安定してきたら、定款に始まり就業規則などさまざまな数十種類の決まりごとを作る必要がある。
  • 目標は具体的に。仕事に飽きて享楽に走るようではだめだ。明確な目標があれば飽きも来ないはず。飽きて次々と新しいことに手を出していてはどれも実らない。
  • 創業期とは異なり、人材が必要であればお金を払い割り切って採用することだ。報酬は基本給と業績給の二本立てにすべき。給料をケチってはだめ。世間の相場をよく知ること。
  • ルールのほかビジョンを明確にしよう。ビジョンに沿って行動し失敗しても許すことが必要。
  • 対等な相談相手を社外に持つべき。何がしかをきちんと払うこと。
  • 他人の資金を使うのは最小限にすべき。理想的な銀行づきあいは、実績作りのために借りる程度にすべき。

○第五章「上場したくなった時に」

  • 有名な会社でも上場していない会社は多い。起業=上場というイメージは持たない方がよい。
  • 上場は、労力的にも資金的にも大変なプロセスである。創業者利益を考えて上場したいと思うようだが、創業期社員も莫大な利益を得て辞めていってしまうかもしれない。

○終章「「いい仕事」って何だろう?」

  • 競争原理ではなく、何かやりたいことがある、というのがもっとも大切な要素である。