香山リカ『なぜ日本人は劣化したか』講談社現代新書、2007年4月

なぜ日本人は劣化したか (講談社現代新書)

なぜ日本人は劣化したか (講談社現代新書)

■内容【個人的評価:★★★−−】

  • 日本人は、全世代、全階層、全分野にわたって急速に劣化しつつある。これは一部の「下流」に属する人ばかりの話ではない。

○第一章「活字の劣化」

  • 雑誌から原稿の依頼があり執筆したが、説明的な文章は読まれないからすべて削除し、箇条書き形式で書いて欲しいといわれた。読者は、背景とか理由などは考えないからだという。また一息に読めるのは以前は800字といわれたが今では200字になってきているという。
  • 「あらすじで読む〜」「サビだけ聴くCD」などが売れている。しかし、あらすじを読んだ後に本編に挑戦するかというと決してそんなことはない。どうやら短い本しか読めないらしいのだ。こうした日本語能力の劣化が30代、40代に起きている。
  • こうした状況は、本来的な状況への回帰と言えるのか、それとも一種の進化なのか。

○第二章「モラルの劣化」

  • 雪印不二家の事件など、企業の不祥事が多く起きている。なぜ歴史も業績もある企業でこのような初歩的な手抜きやごまかしが日常的に行われていたのか。
  • 日本人の性格はメランコリー親和型であり、仕事熱心、几帳面、まじめ、気配り上手、義理がたいといった特徴があり、反面、秩序が崩れたり環境が変わった場合にうつ病になりやすい。ところが、その特徴が根底から変わろうとしている。
  • 自分以外の他人の立場に立ってものを考えることができない。自分が強硬に主張したら他の人はどうなるかという発想がない。

○第三章「劣化していないものは?」

  • 他人への思いやりなどが劣化していく一方で高まっているものがある。それは権利意識である。
  • また、アニメ(ジャパニメーション)、Jポップ、Jファッションはアジアに広く行き渡り、麻生太郎は、「歌舞伎よりサブカルチャーの方がよほど日本のイメージ」と強調してみせた。

○第四章「若者の「生きる力」の劣化」

  • 「死にたい」願望を持つ若者も増えている。何かショックを受けた際にそこから立ち直る力が失われているようだ。
  • 学ぶ力も劣化しており、90分の講義に耐えられない、本を読み通すことができないなどの現象が生じている。

○第五章「社会の劣化」

○第六章「排除型社会での「寛容の劣化」」

  • 社会は犯罪への厳罰化傾向に向かっている。これは被害者保護の視点に立つと意識の進歩かも知れないが、反面包摂型社会から排除型社会への移行に伴う非寛容化であるともいえる。

○第七章「劣化はいつから起きたのか」

  • 社会の衰退・劣化は日本固有の現象ではなく、アメリカでも生じている。
  • 新自由主義が社会の趨勢となっている。強者の論理が主役となり、他者に厳しく自分に甘い、弱肉強食は当たり前という排除型社会に向かいつつあるが、それを進化ととらえている人もいる。

○第八章「劣化か、進化か」

  • 生命を維持する力さえ失われてきている。バーチャル社会である「セカンドライフ」が人気がある。

○第九章「劣化を防ぐことはできるか」

  • 病気もそれを認識することで対応できる。われわれも、自分たちは劣化しているという病識を持つことが必要である。
  • 劣化は結局のところ損である。割り切って対策を進めるべきである。
  • 柳田国男は郷土研究や郷土教育を通じて社会の課題を解決しようという手掛かりを提供しようとした。こうした取り組みは社会を劣化から救う手だてになるだろう。

■読後感
いま、伝える媒体には「分かりやすさ」があるかどうかが重要なポイントとなっている。とりわけ端的な言葉と説明の省略が特徴だ。
それは、情報の送り手から受け手に対しての配慮であるといえるが、一方で受け手はそれ以外のものを読み込むことができなくなっているということか。