サミュエル・ハンチントン『文明の衝突と21世紀の日本』集英社新書、2000年2月

文明の衝突と21世紀の日本 (集英社新書)

文明の衝突と21世紀の日本 (集英社新書)

■内容【個人的評価:★★★−−】
○「二十一世紀における日本の選択」

  • 21世紀初頭の世界政治は、二つの点で冷戦時代のそれとは異なる。
  • 冷戦後、最も重要な国家の類別
  • キッシンジャーの論じた六つの大国、アメリカ、ヨーロッパ、中国、日本、ロシア、インドは、それぞれ異質な五つの文明に属している。
  • 異なる文明から発した国家間の関係はよそよそしくて冷たいものになるだろう。とりわけ中国とイスラムは紛争の主な源となり政治的な不安定をもたらすであろう。
  • とりわけイスラム人口爆発により若者の占める割合が高く、好戦的になりやすい状況である。
  • 東アジアでは経済統合が進みつつある。それは中国によるもので、日本と韓国を除いた東アジアのすべての国々の経済を支配している。
  • アメリカは、他の極を作ることを認めたくない立場にいる。したがって、ある文明圏においてもそれが分散化した構造を持っていることを歓迎する。
  • アメリカは今やあらゆる問題において他の諸国から孤立している。
  • 他のすべての文明には複数の国が含まれる。日本は文明と国が一致しており特異なケースである。
  • また、日本は非西欧の国として始めて近代化したが、西欧化はしなかった。近代化の頂点に達しながら、基本的な価値観、生活様式、人間関係、行動規範において非西欧的である。
  • アメリカは日本と親和的だが、一方で日本人とコミュニケーションをとるのは難しいと考えている。
  • 日本には革命がなかった。近代化は、上から課された、明治維新とアメリカによる占領からもたらされた。
  • 東アジアの安定と幸福は、日本と中国がいかに手を携えられるかにかかっている。

○2「孤独な超大国」

  • 各国は、アメリカの覇権に対して脅威を感じている。また、一方で、そこから利益を得たいと考えている。アメリカは自らのリーダーシップに従った国には、それなりの見返りを与えるからだ。
  • 逆にアメリカは多極体制の世界における大国の一つとなる方が緊張と対立から解放され、要求されるものも少なく、得るものは大きくなるだろう。

○3「文明の衝突

  • 中国の発展は、アメリカにとってよりぬきさしならぬ挑戦となる可能性がある。アメリカと中国との争点は、日本との場合よりはるかに広い範囲にわたる。(経済、人権、チベット、台湾、南シナ海、兵器拡散など)
  • 中国とアメリカは、互いに相手の覇権を認めたくない立場にある。
  • リー・クアン・ユーは、中国の台頭に懸念を表明したが、こうした新興勢力の台頭に対し、採用できるのは、均衡政策(バランシング)か、追随政策(バンドワゴニング)である。西欧の国際関係論では、通常はバランシングが望ましいものとされてきた。バンドワゴニングが成立するためには信頼がなければならず、そうでなければ飲み込まれてしまう。
  • 日本はどうするか。アメリカとともに中国を封じ込めるのか、それとも自国の軍備拡張するのか。アメリカははっきりした決意も公約もないため、日本は中国に順応するのではないか。

○「解題」(中西輝政

  • F.フクヤマは『歴史の終わり』で冷戦後の世界をイデオロギーの対立のないアメリカ中心の歴史の終わりが到来すると説いたが、ハンチントンは、非アメリカ的世界像を提起した。
  • 現在、アメリカでは文化多元主義が力を有しているが、これはアメリカを崩壊させてしまう力を持っている。
  • ハンチントンは、西欧対非西欧という対立軸を避けつつ非西欧社会を分割統治する可能性を模索している。
  • 中国については、ハンチントンは今後も安定して成長を続けるとしているが、逆に分裂していくのではないか。

■読後感
この著書については、最近、世界におけるさまざまな摩擦、テロなどを説明するときによく引用されるが、それほど画期的な位置づけを持つものなのか正直なところ分からなかった。
どちらかというと、ウォーラーステイン『近代世界システム』や古くはシュペングラー、トインビーの考え方を、現代世界の説明にあたり内部での動学や文明相互の関係を意識しつつ精緻化して提示した、という印象を受けた。