城塚健之『官製ワーキングプアを生んだ公共サービス「改革」』自治体研究社、2008年8月

官製ワーキングプアを生んだ公共サービス「改革」

官製ワーキングプアを生んだ公共サービス「改革」

■内容【個人的評価:★★★−−】

  • 親が就かせたい職業のトップに公務員があるが、それほど楽な職場というわけではない。国家公務員では全体の2%が長期休業者である。そのうち63%が精神及び行動の障害である。地方公務員でもうつ病などの心の病を抱える職員が増加したことが明らかになっている。
  • 成果主義の導入、アウトソーシング・民営化が、公務を、本来の目的とは離れた方向へ向かわせている。

○1「構造改革の柱としての「小さな政府」」

  • 新自由主義に基づき、国家社会のあらゆる仕組みをつくりかえていこうとしている。新自由主義とは、企業活動の自由、とりわけ多国籍企業の活動の自由を最善の価値としてこれを積極的に支援し、障害となるものを排除することで社会全体の価値の総和が高まると主張する経済学説である。
  • これまで日本では公共事業や農業補助金に多くの予算を注いできたが、構造改革により、国内の中小企業や農家は潰される対象となった。開発主義を支えた大きな官僚機構を作り変え、公務の民営化を主要な手法とする小さな政府が志向されることとなった。
  • 多国籍企業の利益になる国家とは、
    • 1.税負担が低い
    • 2.規制が少ない
    • 3.インフラが整備されている
    • 4.治安が安定している
    • 5.安価で良質の労働力が確保できる がある。
  • 市場介入や公金投入の予算は確保しつつ、社会保障については自己責任を要求する。これが小さな政府である。これだけだと格差や貧困により社会がもたなくなる。このため、治安維持、道徳教育、戦争遂行など強権的な部分は残すこととなる。
  • 道州制論議は、小さな政府実現の中で国の機能の受け皿としてふさわしいからである。

○2「進行する公務の民間化」

  • 小さな政府を作るさまざまな方策はニューパブリックマネジメントとして一括りにされている。行政を民間企業と同様の経営主体とみなし、人件費などのコスト削減を第一の目標におく考え方である。
  • 公務の民間化は、企画と実施を分離する。政策立案はエリートが担う部分として公務に残す、この担い手を公務員制度改革により民間企業と同様の労務管理をするということである。いっぽう、実施についてはエリートが行う必要はないので、臨時非常勤職員にさせたり、アウトソーシングするということである。

○3「内部民間化としての公務員制度改革

○4「実施部門の外部化(公務の市場化)」

  • アウトソーシングは以下の順序で進められている。(中央省庁等改革基本法
    • 1.三公社(国鉄、電電、専売)、郵政民営化、病院・保育所の民営化
    • 2.上記1以外で、政策の実施にかかるものについて独立行政法人を活用
    • 3.自ら行う事業であるが直接やる必要がないものについて民間委託(市場化テスト、指定管理者)
  • これらを具体的に進めるため、以下の法律が制定された。
  • アウトソーシングの手法を具体化する法律も制定・改正された。
  • PFIが進められている。PFIは施設の所有権に着目して三つに分類されている。
    • 1.BOT(Build‐Operate‐Transfer):民間事業者が施設を建設し、その事業者が一定期間運用し、投下資金回収後に公的セクターに施設所有権を移転する方式
    • 2.BTO(Build‐Transfer‐Operate):民間事業者が施設を建設し、その所有権を公的セクターに移転し、運営は引き続き事業者が行う
    • 3.BOO(Build‐Own‐Operate):民間事業者が施設を建設し、その後施設を所有したまま運用して収益をあげる
  • このうち2のBTO方式が64%を占めている。リスクはできるだけ官に負わせたいということであろう。
  • PFIに参入する企業はSPI(特別目的会社)を設立し、この会社がハコモノの建設ばかりでなく完成後の運営も行う。
  • PFIにも運営の見通しが甘いなどさまざまな問題が現れている。

○5「公務市場化の実際」

  • 指定管理者制度:これまでは公の施設は直営、公共的団体への委託、指定管理者制度の三つから選択できたが、2006年9月に経過期間が終了し、直営または指定管理者制度のどちらかによることとなった。指定管理者となれる団体の範囲には制限はなく、民間営利企業が参入を進めてきている。一方で指定管理者の不祥事、倒産、撤退も多い。
  • 労働者派遣:1985年の制定当初は専門的な13業務に限定(ポジティブリスト)されており、中間搾取はないだろうということだったが、1996年の改正により26業務に、また1999年の改正では港湾運送、建設、警備、医療関係、製造工程を除く業務で原則自由化された(ネガティブリスト化)。当初は1年以内ということだったが、2003年改正により製造工程、建設、医療関係の一部が解禁され、派遣期間についても専門的26業務については期間制限を撤廃、その他の業務についても最長三年と延長された。三年を超えて新たに労働者を雇用する場合には当該派遣労働者を直接雇用しなければならない。そもそも自治体の業務は首長または補助機関によって行うものとされ、補助機関は職員など地方公務員のみが予定されていることから、自治体に対する労働者派遣は自治法違反ではないかとも考えられる。
  • 業務請負の場合には受け入れ先は業者に注文・指示できても、労働者に対して指揮命令はできない。いっぽう派遣労働者に対しては指揮命令ができる。
  • 形式は業務請負ということにしておいて、実態は労働者派遣という「偽装請負」が民間大企業(キヤノン松下電器日亜化学)や自治体でも行われている。
  • 市場化テストが推進側の期待を集めている。これは国、自治体の一体の業務を競争入札することである。市場化テストで落札した企業と自治体は請負契約の関係となる。これを「競争の導入による公共サービスの改革に関する法律(市場化テスト法)」で制度化している。この法律で規定しているのは次の二つである。
    • 1.官民競争入札(官不戦敗による民間競争入札もある)
    • 2.特定公共サービスに関する規制解除
  • 入札対象業務は、国や自治体の「一体の業務」である。入札ではコストに優れた民間に官がかなうとは考えられない。民間に任せてだめだった場合、また官に戻すというシナリオは考えられない。すでに人材もノウハウも散逸しているからである。
  • 市場化テスト法が対象とする「特定公共サービス」は、戸籍謄本等・納税証明書・外国人登録原票写し等・住民票写し等・戸籍附票写し・印鑑登録証明書の交付請求の6業務である。受け付け及び引き渡しに限定されているのは、発行業務は法律上の判断を含む公権力の行使にあたるためである。
  • じつは市場化テストは特定公共サービスには限定されない。6業務は法律でお墨付きを与えているのであり、他の法律で禁止されていない限りどんな業務でも可能である。今後閣議決定により重点項目が決められていくこととなる。
  • すでに公共職業訓練(東京都)、自治研修所職員研修、旅券申請窓口(愛知県)、庁舎管理運営(和歌山県)、職員公舎等管理(岡山県)、車両維持管理(倉敷市)などで市場化テストが実施されている。
  • 独立行政法人では、職員が公務員のままでいる「特定型」と民間の労働者となる「一般型」に分かれる。後者の形式が原則であるが、さまざまな例外が設けられている。地方独立行政法人法では、大学、病院、試験研究機関を対象としている。しかし、神奈川県自治総合研究センターの研究「神奈川県における独立行政法人制度」にみるように、国の独法とくらべ、スケールメリットがないことが指摘されている。また国の独法では激しいリストラが進行しつつある。
  • 公営企業の売却は、株式売買や営業譲渡といった民間の形式とは異なり、公営企業の廃止と財産の売却という形で行われる。
  • 自治体の外郭団体として公益法人改革も行われている。
  • 財政健全化法(2007年)により、財政再建団体のみならず、財政健全化団体というレッテルを張って国の関与を強めようとしている。これにより自治体の市場化・切り捨てが加速化されている。

○6「危機に立つ住民の権利」

  • ふじみ野市プール事故(2006年)に見られるように、丸投げ、無責任が市場化の過程で起きている。
  • 結局、行政が責任を負うという覚悟がないと、住民の生命身体は守れない。
  • 姉葉事件も、1998年の建築基準法改正で導入された指定確認検査機関による建築確認・検査義務によるものだった。
  • 結局のところ、余分な社会的なコストの増、損害賠償、などでコスト面で市場化が優れているとは言いがたい面もある。自治体関係の仕事でワーキングプアも増えてきている。

○7「公務市場化と労働者の権利」

  • アウトソーシングによりそこで働いていた人々の権利は奪われ、雇用の劣化が進行する。外郭団体の場合は指定管理者や業務委託先になれない場合、プロパー職員を整理解雇せざるを得ない。こんなときに労働者の雇用を保護する法律はない。
  • 公務はサービス業であり、コストに占める人件費比率が高い。コスト削減は人件費ということになり、低賃金の非常勤職員が多くなっている。パート、アルバイト、契約・派遣社員が中心的な担い手になり、官製ワーキングプアともいえる。
  • 公務労働の専門性が維持されない事態となってきている。

○8「公務市場化への対抗軸」

  • これを押しとどめるのは容易なことではない。しかし、その弊害を徹底的に明らかにすることが大切である。
    • 1.人権保障機能の低下:住民が主権者でなく、顧客・消費者という扱いとなってしまう
    • 2.民主的コントロールの低下:情報公開や住民監査請求の対象から外れてしまう
    • 3.労働者の権利の軽視:低賃金労働者の広範な活用、ワーキングプアの増大
  • 改憲されると、間違いなく自己責任社会へ向かうこととなるだろう。
  • どこまでを公務員が担うべきなのか。これは住民がしっかり議論する必要がある。

○9「どう運動を広げていくか」

  • 公務の市場化の問題を考えると、今日の資本主義のもっとも根本的な部分と対峙することとなる。当面する問題ばかりでなく、国家社会のあり方を考えることが必要である。
  • 科学的な見方を身につけよう。
    • 1.現象だけで物事を考えない
    • 2.マスコミが正しいとは限らない
    • 3.権力を信用しない
    • 4.たこつぼに陥らない
  • 公務員バッシングは病的である。官僚も一般の公務員もいっしょくたにして攻撃している。善悪二元論になってしまっている。