中野雅至『公務員クビ!論』朝日新書、2008年2月

公務員クビ!論  (朝日新書)

公務員クビ!論 (朝日新書)

■内容【個人的評価:★★★−−】

  • 公務員はこれから厳しい時代を迎える。自分は、市役所職員、県庁の管理職、国の出先機関、本省の4つを経験した。そして今は公立大学の教員である。つまりキャリアすべてが公務員である。
  • そんな経歴から、学生から公務員になりたいという相談を受けるが、そんなに安定している職業とは思わない方がよいと助言している。安定しているというのは、親の思い込みに過ぎない。夕張の事例は例外だと考えている公務員も多いが、このような考え方は甘い。
  • 本書の第一の意図は、公務員の未来予想図を示すこと、第二の意図は、三種類ある公務員(キャリア(第二章)、ノンキャリア(第三章)、地方公務員(第四章))をわかってもらうことである。第三の意図は、公務員の仕事は世間が思っているほど簡単ではないこと、少なくとも何割かの公務員は複雑化する仕事を前に苦悩していることを示すことである。

○第一章「公務員はいかにして公務員になるのか」

  • 現在公務員は、国家68万人、地方300万人であり、日本の就業者6400万人の5%程度である。国家公務員はデスクワーク中心、地方公務員はサービス労働中心である。
  • 公立大学准教授の自分の年収は約800万円である。メーカーの友人からは楽して儲けすぎとか、金融関係や起業家からは安いなと言われる。
  • 公務員の給与の特徴は、
    • 1.硬直的であること(年一回の見直し)
    • 2.年功序列であること
    • 3.横並びであること(キャリアもノンキャリアもそれほど差がない)
    • 4.諸手当が支給されること がある。
  • 身分保証が強いのも特徴だが、2007年の国家公務員法改正で、人事評価、勤務実績がよくない場合はクビにできる旨明記された。
  • 退職後が公務員人生の始まりといえるかもしれない。天下りである。これは制度ではなく慣行である。なぜこれを無くせないかというと、キャリア官僚は定年前に退職せざるをえない人事体系になっているからである。
  • これまでは離職後2年間は密接な関係のある営利企業に就職することを禁じていたが、これを解除し、コネを使って悪事を働いた場合は罰を科すという方式へ変わった。

○第二章「キャリア官僚受難の時代」

  • 自分の仕事に自信の持てないキャリア官僚が増えている。役所は憂鬱な人であふれかえっている。若手へのヒアリング調査によれば、世間に役立つ仕事ができていない、本来やらなくてもよい仕事をやっている、やっているのに社会的に評価されていない、などの感覚を持っているようである。
  • 官僚の憂鬱は4つに分けられる。
    • 1.セクショナリズム
    • 2.政治への意味のない従属
    • 3.雑用の増加=知的業務の減少
    • 4.世間からの厳しい目
  • 役所のセクショナリズムは、たんに役所だけが関係するのでなく、さまざまな業界、議員、公益法人などの利害が絡んでおり、出来上がると崩れないのである。官僚はこの所管争いに疲れ果てている。調整に時間を要し、大胆な政策があたりさわりのない政策にすりかえられてしまう。こうしたことが起きる問題点は、
    • 1.争いの裁定者がいない
    • 2.このため時間がかかる
    • 3.結論があたりさわりのないものになってしまう
  • である。どんな争いも収まるのは裁定者がいるからなのだ。
  • 末端の係員どうしが強く言い合いをする。しかしその背後には上司がいる。これが重層構造的に戦うこととなると、官僚も疲れ果ててしまうのだ。
  • これまでは政治家に対する信頼は低く、官僚への信頼は厚かった。しかし、低成長時代になり、これまでの政策が失敗する中、政官の立場は逆転した。官僚は傲慢な政治家や事務局の負担が増える内閣主導体制へ不満を持っている。
  • 政治家は、官僚が怒られるのに弱いことが分かり、怒鳴り散らしてばかりいる。また、官邸主導といいつつ具体的な指示がない。
  • 東大を出てコピー取りばかりしている官僚も多い。行革のため役所は人手不足である。私自身は課長補佐だったが部下はいなかった。少しは知的業務もするものの、単純なワープロ打ち、きれいなだけのパワーポイント資料作り、際限のないコピー、問い合わせ対応などの雑務をやってきた。雑務だけで一日が終わることもある。雑務から解放しないとやる気を持って入ってきた若者も辞めてしまう。
  • 多くの官僚は深夜遅くまで一生懸命仕事をしている。しかし公務員バッシングが続いている。彼らがそんなにすべてのことに責任を負える状態にあるのか。
  • 留学した官僚がそのまま辞めてしまうケースが多い。また、政治家へ転身するケースも多い。自民党二世議員が多く、彼ら官僚は民主党から立候補している。
  • 労働条件を理由に辞めているのではない。権限や権力があるということが魅力だった。しかし、今は調整の担当になり、政治家の僕になってしまった。
  • 近年では辞める官僚が続出し、志望者も半減した。しかしまだキャリア官僚の特権をなくすべきだ、などの論調が強い。キャリア制度のおかげで厳しい労働条件にも耐えているのに、逆効果である。
  • 今の日本では試験の点数よりも、どれだけ金を稼げるかで優秀さを計ろうとしている。

○第三章「追いつめられる普通の「ノホホン公務員」」

  • 度重なる社会保険庁の不祥事に見られるように、ノンキャリアも批判される時代を迎えた。
  • グローバリゼーションや市場主義の導入で、日本は弱肉強食の世の中となった。そんな中で「クビにならない公務員」は、腹立たしい存在ということになる。
  • 昔の高等文官はたしかに特権的な扱いを受けていた。しかし、いまの公務員はキャリアを含め、そんなに目立った差別はない(警察は例外)。ともかくあまりに一律平等というのが公務員の給料である。職務に応じた給料とは言うが、自分が新潟県庁の課長だったときは部下の方が給料は高かった。かつては年輩の給食のオバサンは総務部長よりも高い給料をもらっていた。
  • フランスやイギリスにはエリート制がある。彼らは30代で局長になる場合もある。しかし、日本には表面上エリート公務員制度はない。
  • キャリアは年輩のノンキャリアにいじめられる。人事が別で、そうしたからといって報復されることもない。労働省はノンキャリアの力が強く、経産省はキャリアがすべてを決めている。
  • とくに、厚生省は制度を作るだけで現場で仕事をすることがない。社会保険庁を指導することもしていないのである。
  • 人員削減計画は、人手の足りない本省でなく、出先機関を中心に実施されるはずである。
  • 都市部と地方で給料表を分けることになるだろう。また抜擢人事も増えるのではないか。本省と出先の差もつけられるはずだ。

○第四章「格差が広がる地方公務員」

  • 一律・平等が崩れることについては地方公務員も同じである。北海道庁東京都庁は状況がまったく違うのだから差があって当然だろう。これまでは中央集権国家であったため、北海道○○村の職員も東京都職員もそれほど待遇に差がなかった。分権により、地域の経済力を背景にした差が生まれるはずである。
  • 稼ぐために、企業誘致、産業振興、観光振興、文化振興などへの取り組みが必要になっている。たんに大工場を持ってくればよいというものではなく、様々な政策を組み合わせるとともに、関係者の力を引き出す実行力が求められる。
  • 行政改革への取り組みも自治体間で大きな差が生じるだろう。
  • 公務員数は減少に向かっているが、これを退職者と採用抑制により実現している。さらなる削減には、分限処分が必要となるだろう。
  • 自治体の労働条件の多様化の波を露骨にかぶるのは誰か。それは事務職だろう。テレワークの広範な適用、残業手当の不支給などが考えられる。国ではいくら残業しても月5万円だった。自治体では100%の支給がある。
  • 非正規職員も増加しており、国と地方を合わせ60万人に上る。待遇面での差があるのはおかしいという話も出るだろう。民間との競争の余波を受けるのは高卒で役所に入った公務員だろう。

○第五章「世界標準は「官民統一」」

  • 世界的に公務員制度改革の流れがNPMにより形づくられた。公務員減らしは世界の潮流だが、しかし財政赤字は縮減していない。
  • 官民統一、公務員制度に競争的要素を導入し、活力を取り戻すことが望まれる。今の公務員制度はあまりにも悪平等である。その後で官民流動化すべきである。
  • 官優遇はマスコミが勝手につくったイメージに過ぎない。新聞記者も公務員を経験してみたらよいだろう。
  • 労働基本権を公務員に与える。能力評価・業績評価制度を実行に移す。給料などの処遇を競争的にする。

○第六章「市場万能時代、公務員はどれだけ努力しても民間に勝てない?」

  • これからは処遇が多様化する。ひとりひとりが選別される。では何を持って評価されるのか。もともと効率性重視と公益重視は合わない。
  • 役所へのバッシングが強いが、できる職員ほど窓口の担当にはならないことが多い。事務作業や企画立案で有能な人は窓口でも有能である。制度が複雑になるのはやむを得ない点もあり、これを有能な人はきちんと説明できるだろう。
  • 公務員の比較優位はここにこそある。分かりやすい説明だ。これを認識していない人が多い。
  • 効率性を進めると、かえってふじみ野市のプール事故のようなことが起こるだろう。

○第七章「格差社会における行政サービス」

  • 日本が、富裕層、中間層、貧困層に三極化していくと複雑で厳しい課題に直面することとなるだろう。
  • 役所は基本的に大量生産ビジネスモデルである。これに対応するためには、前提をひっくり返す必要がある。受益と負担の関係が照応しないことが出てくる。
  • 今までは中間層をターゲットとしてきたが、中間層のニーズを把握して反映させることは難しくなってくる。満足度も下がるだろう。
  • サラリーマンの参加意識が高まるかどうかは図書館にかかっている。書籍や雑誌は知識の源泉である。ここをもっと人の集まる場所に変える必要があるだろう。夕方に閉館するのではサラリーマンは利用できない。
  • 貧困層に対するサービスをめぐっては良識ある市町村職員は苦悩するだろう。
  • 公務員は引き抜きをされるような人材を目指すべきである。また、自主的に公務員制度を改革することが求められる。