早乙女勝元『生きることと学ぶこと』岩波ジュニア新書、1997年9月

生きることと学ぶこと (岩波ジュニア新書)

生きることと学ぶこと (岩波ジュニア新書)

■内容【個人的評価:★★★−−】
○「〈問題提起1〉人は何のために学ぶのか?」

  • 現在の点数主義は、金やモノに執着する価値観と結びあっている。学ぶという目的意識が自己の利益や保身にのみとらわれているようであれば、この先どうなるのか。保身と理想とはなかなか両立しないものである。
  • 人間的教養として重要なのは理性である。物事の道理や筋道を立てて考えることのできる能力である。
  • 社会の矛盾に立ち向かう態度が必要である。アウン・サン・スーチーさんはミャンマー民主化のために立ち上がった。
  • 自分の最終学歴は小学校高等科卒業である。その後工場で働きつつ、定時制高校に通っていたが、結局退学することとなった。

○「〈問題提起2〉生きるとはどういうことか?」

  • 最近、自殺やいじめ死が多い。これは大人社会のありようと関連している。生への執着が薄かったのではないか。
  • 昔の子供たちは、風呂炊きなどさまざまなことを身体で覚えた。しかし、今の子たちはすべてワンタッチで事足れりとなっている。
  • いじめられている子を見殺しにしている。ほんの少し勇気を出したり、職員室に知らせることすらできていない。人間にふさわしい教育ができていない。
  • 朝鮮戦争時、あれだけわれわれに火の雨を降らせたB29が朝鮮への無差別爆撃に日本本土や沖縄から飛び立ち、またその兵站を提供している。そして特需だと浮かれている、こんなことがあっていいのかと暗澹とした。
  • 自分史を書くことにより、これからの方向性を確認したり、平和の重要さを訴えることができると思い、取り組んだ。そして十代で『下町の故郷』という書物を書き、好評を得た。しかし、社会における経験が必要と思い、工場を転々とした。工場ではあまりにも単純で過酷な労働に精神的にも追い詰められた。

○「〈問題提起3〉地球社会の明日になにができるか?」

  • 大学で非常勤講師として宮澤賢治の理想主義について話した際、学生からそんなユートピアは難しいのではないかと言われた。しかし、そうしたものを実現するのは難しくても、追い求める過程こそ重要なのではないか。
  • 人間関係がバラバラになりすぎて個性も確立できていない。自分以外の他者に向けてどれだけぬくもりのある心配りができるかどうか、このために生涯学び続けるのではないか。
  • 対外的には、日本は人道的な仕事で世界のリーダーシップをとっていくべきだろう。
  • 平和を、受け身でなく積極的に構築していくことが求められている。