三橋規宏『ゼロエミッションと日本経済』岩波新書、1997年3月

ゼロエミッションと日本経済 (岩波新書)

ゼロエミッションと日本経済 (岩波新書)

■内容【個人的評価:★★★−−】

  • 本書は、環境に挑む人、企業、地域を取材して書き下ろした報告である。バブル崩壊後の「失われた10年」には、21世紀を支える新しい時代の芽が着実に成長した。資源循環型社会へ向けたさまざまな取り組みが21世紀にメインストリームになることを期待したい。
  • ゼロエミッションとは、廃棄物ゼロという意味である。資源を100%利用し、環境負荷を伴わない社会を目指すキーワードである。

○第一章「屋久島の実験」

  • 1996年5月29日から3日間、アメリカのテネシー州チャタヌガ市で国連大学主催の第二回ゼロエミッション世界会議が開かれた。チャタヌガは全米一の公害都市といわれた町であるが、さまざまな取り組みを通じて環境保全型の町へ生まれ変わった。
  • この会議では、屋久島の取り組みが紹介された。屋久島の環境保全への取り組みは、世界自然遺産に登録されたことが契機になっている。
  • 環境問題は煎じ詰めれば地域の問題である。そこに住む住民が心の底から自分の地域をよくしたいと願う気持ちがないとうまく行かない。必要なのは評論家的態度でなく、自分が率先してやるというやる気がくさりの輪を作ることである。
  • もともと屋久島にも開発の手が伸びようとしていた時期があった。80年代後半のバブル期である。しかし自然保護を主張して知事が反対し計画は頓挫した。
  • 1993年12月に世界遺産となってから観光客が年間20万人近くに増え、ごみや自然破壊などの問題が顕在化し始めた。
  • これと呼応して1993年7月には、屋久町、上屋久町の二つの町議会が屋久島憲章を議決した。また、これをふまえ、屋久島ゼロエミッションモデルとして以下の三つが提言として掲げられた。
    • 1.島の資源の徹底利用
    • 2.島からの化石燃料の追放:水力・太陽光発電、電気自動車
    • 3.廃棄物ゼロ社会の実現
  • 観光面では従来型の大型バス観光でなく、エコツーリズムを実現しようとしている。
  • チャタヌガ市も電気バスを活用し、排ガスによる大気汚染を減らそうとしている。

○第二章「常識の壁に挑む」

  • 住宅総合メーカー「木の城たいせつ」では、もったいない精神を掲げ、道産材で、しかも間伐材、小径木、未利用材を活用した集成材をもとに家を作っているが、冬暖かく、豊かな気持ちで過ごせ、100年以上持つという目標を掲げている。工場もゼロエミッション化を実現させている。

○第三章「大企業の異端者たち」

  • 企業どうしで「オフィス町内会」を作っている例もある。これにより古紙のリサイクルなどを効率的に行っている。

○第四章「時代を拓く地域を歩く」

  • 環境技術や地道な取り組みを通じて汚染された地域を再生させた北九州市、大気汚染の克服に取り組んだ板橋区、ゼロエミッション工業団地を作り上げた山梨県国母工業団地、悪風を活用して風力発電に取り組んだ山形県立川町などがある。

○第五章「資源循環型社会への道」

  • 埼玉県では、「彩の国ゼロエミッション計画」を秩父小野田で実践しており、埼玉県内の廃棄物はすべて県内で処理することを目指している。県内の五つのセメント工場に、埼玉県と秩父小野田が呼び掛けてこれを実現しようとしている。
  • 全体としての取り組みでは、
    • 1.ゼロエミッション型の産業クラスターの形成
    • 2.逆工場システムの導入
    • 3.脱化石燃料と新エネルギーの開発
    • 4.植林
    • 5.バイオマスの活用
    • 6.炭素税などの経済的手法
  • また、もっとも重要なのはわれわれの意識であり、以下の認識を持つことが重要となる。
    • 1.有限で、劣化する地球
    • 2.植物あっての動物
    • 3.人類だけが増え続けることはできない
  • 石川英輔氏によると、江戸の社会は、世界に例を見ないような見事な循環型社会を作り上げていた。都市と農村のあいだのリサイクルの輪がしっかりとできていた。節約の考え方が根付いていたが、高度成長期以降、これがすたれてしまった。