岩井克人『ヴェニスの商人の資本論』筑摩書房、1985年1月

ヴェニスの商人の資本論

ヴェニスの商人の資本論

■内容【個人的評価:★★★★−】
○「資本主義」

  • マルクスは「人間は、自分で自分の歴史をつくる。しかし、自由自在に、自分で選んだ状況のもとで歴史をつくるのではなくて、直接にありあわせる、与えられた、過去から受け継いだ状況のもとでつくるのである。」と『ルイ・ボナパルトブリュメール十八日』でいっている。ここでいう、「直接にありあわせる」という考えは、実はマルクスの死んだ年に生まれたシュムペーターの『経済発展の理論』において、「発展」の原動力として位置づけた「新結合」と同じである。
  • 一方で、シュムペーターは、新古典派経済学の創始者の一人であるワルラスをきわめて高く評価している。
  • 産業資本家は、労働市場において労働力をその価値どおり購入し、生産物市場においても生産物をその価値どおりに売っているにもかかわらず、剰余価値を得ることになる。すなわち産業資本主義経済は、詐欺、略奪、強制等による不等価交換を行うことなく剰余価値を発生させる仕組みを内に備えていることになる。
  • ワルラス一般均衡体系においては、何も起こらない。もはや利潤は存在せず、したがって、彼の体系の中で唯一に積極的な役割を担わされている企業家の新たな行動を引き起こす何ものも存在しない。

○「貨幣と媒介」
○「不均衡動学」

  • われわれの生きている経済が、ハイパー・インフレ期や大恐慌時代を除いてそれほど不安定的でないのは、労働市場で貨幣賃金が硬直的であるがゆえに累積的デフレやインフレの発動が妨げられているからである。
  • あらゆる社会現象は、不確かな未来に向けて、この現在に意思決定しなければならない人間の営みの産物である。したがって、未来に関する「予想」がいかに形成されるかという問題は、社会現象の分析にとって本質的である。

○「書物」