岩井寛『森田療法』講談社現代新書、1986年8月

森田療法 (講談社現代新書)

森田療法 (講談社現代新書)

■内容【個人的評価:★★★−−】

  • もともと森田療法は、心の不安を内なる異物として除去しようとせずに、そこに日常とのおおらかな連続性を容認するところに始まっている。よく知られるフロイディズムとは拠って立つところがかなり異なっている。
  • 岩井先生は、死の直前まで「生きることの自由とは、意味の実現にかけることなんです」と強調していた。

○はじめに「「森田療法」とは何か」

  • 西欧の心理療法森田療法の一番の違いは、西欧では神経症者が心のうちに内在させる不安や葛藤を分析し、これを異物として除去しようとするのに対し、森田療法では、神経症者の不安・葛藤と日常人のそれは連続のものとして考えるところにある。それら不安・葛藤は異常なものではなく、除去すべきものでもない。
  • 森田は、神経症者は「生の欲望」が強いととらえた。これはフロイトの「性の欲望」とは異なる。神経症者は理想が高く、「完全欲へのとらわれ」が強いため、常に「かくあるべし」という自分の理想的な姿を設定してしまう。しかし現実は理想と異なるため、不安・葛藤が強くなってしまう。
  • 森田の欲望論は、欲望の二面性を肯定するところから出発する。人間は美を求める一方で醜を求めたり、善を求める一方で悪を求めたりする。したがって、一方の欲望を切り捨てることなく、事実をそのまま認める「あるがまま」を基本的な理念としている。
  • 森田は、自己否定的・逃避的な欲求をそのままとしておき、もう一方の自己実現欲求に従い、実践するときに人間に進歩があると考える。

○1「森田療法の基礎理論」

  • 人間は、生命維持・種族維持といった生物としての基本機能と、己の生き方に対し、反省的かつ生産的に思索するという側面を併せ持っている。
  • 現実は灰色であるが、その中で一つの生き方を選び、そしてそれが何らかの形で社会の利益に結びつくとき、一個の人間として理想に向かって生きていると言える。
  • 自我が強化されるとともに他者や社会との関係の中で自分がどう生きていけるか強く考え始める。ここで自己肯定ができる場合と自己否定、劣等感につながる場合がある。

○2「神経質(症)のメカニズム」

  • 人間は生まれながらにして、より健康でありたいし、よりよい人生を過ごしたいと考えている。反対に、不健康になったりみじめな状態になることをおそれる。神経質者は生まれつきこのような心配が強い人である。また、こんなことになりはしないか、とか強迫観念につながる部分が強い。
  • こうした「とらわれ」がひどくなるにつれ、これと反比例して現実で生き生きと生きるという自由を失いがちになる。そのうえ、自分にとって都合のよい理由をつくって合理化し、その裏で逃避をするという「はからいの行動」をとるようになる。

○3「神経質(症)の諸症状」

  • 有名な作家、倉田百三は雑念にとらわれて作家活動ができなくなった。彼は「イロハ恐怖」と称する強迫観念にとりつかれた。イを頭に浮かべると、次にロが頭に浮かんできてしまい、ロが浮かぶとハが浮かんでそれが循環的に繰り返す。日常人からすればばかばかしいことだが、強迫観念症の人々にとっては地獄の苦痛に匹敵する苦しみとなる。
  • このほか、精神的な不安が前景に出てくる不安神経症がある。たとえば呼吸困難発作などである。
  • また、普通神経質もある。これは多くの場合自律神経と関係があり、たとえば不眠神経症などはこれに該当する。
  • 不眠神経症を調べると睡眠の量としては十分に寝ている人が多いようである。寝付きが悪く、明け方に深く眠るタイプが多い。これに対し、うつ病の場合は終夜浅眠で早朝覚醒してしまう。不眠神経症の場合は、8時間寝なくてはならないという「睡眠神話」にとらわれている人が多いようである。眠る準備を一生懸命に行う人もいるがこれはすべてマイナスである。十分夜を楽しんでから寝ようと思う時間に床に入り、眠りにとらえてもらうのを待つのがよい。ある観念が浮かんできてストップできないという訴えも多いが、それは止めることのできないものである。少しでも楽しいことを考えるようにするほかない。

○4「神経質(症)の治し方」

  • 入院療法と外来療法があるが、外来では森田療法の特有な治療技法である「日記」を重視している。
  • 森田療法の中心は「あるがまま」と「目的本位」である。物事をそのままにしておき、不安・葛藤を排除しない。
  • ただし逃避をするのではなく、不安・葛藤をあるがままにしながら人間性に向かっての方向を持つ、この方向を「目的本位」という。

○5「日常に生かす森田療法

  • 最後に重要な点を振り返っておきたい。
    • 1.自分の生きてきた時間、おかれている空間を含め自分の存在を正しく認識する
    • 2.自分の苦悩が「とらわれ」に陥っていないか検証する
    • 3.とらわれていることがわかったのであれば、その内容を整理し、あるがままに認める
    • 4.自分の真の欲望は何か考える
    • 5.欲望の実現のために目的本位の行動をとる
    • 6.これらを通じて自己実現・自己陶冶をはかる
    • 7.人間としての自由を求め、個性を生かし、創造的に生きる

■読後感
睡眠にふさわしい環境(夜間)
1.音を聞かない(テレビ、CD)
2.あまり食べない→エネルギーを貯めない
3.枕など