林修三『法制執務』学陽書房、1979年10月

法制執務 (1979年) (地方公務員新研修選書〈17〉)

法制執務 (1979年) (地方公務員新研修選書〈17〉)

■内容【個人的評価:★★★−−】

  • 法制執務」とは、立法作業をするにあたって心得るべき法律上の知識、技術ということである。

◎第一編「総論」
○第一章「立法事務修習の目的」

  • 法の本質は、強要性・強制性である。法令は、目的や意図がはっきりしており、実行可能で、平易にできていることが望ましい。

○第二章「形式面から見た立法上の心構え」

  • 1.表現の正確さ
  • 2.法文のわかりやすさ

○第三章「内容面からみた立法上の心構え」

  • 要約していえば、社会における正義と公平の観念に合致したものであり、社会の現状からあまり飛躍したものでなく、他の法令と矛盾抵触関係がないこと。
    • 1.法たるにふさわしいもの
    • 2.大多数の人々の遵守が期待できること
    • 3.法令の内容が、正しく、よい内容である(個人の地位の尊重と公共の福祉の要請とが適切に調和されている、国または地方公共団体の権力の公正な行使が保障されている、社会秩序の安定が確保される)
    • 4.既存の法令との間に法的な協調が保たれている
  • 強要性を備えていないものは法とは言えない。補助金交付などは法でなく、予算または行政機関における決定(閣議、省議決定)でよいのではないか。
  • なぜ法を守ろうとするのか、国または地方公共団体の権威のため、または制裁などの権力の発動を恐れて
  • 基本法や組織法などは法の実効性という見地で立法内容を吟味する必要はないが、一般の人々の行動の基準を定め、権利義務関係を定める大多数の法令は立法内容をよく吟味する必要がある。
  • 法の理念とは、社会における正義と公平の実現である。この意味の法の理念は、憲法の中で、前文や第三章の「国民の権利及び義務」の規定を中心としてある程度具体化されているから、法令の内容は、これら規定の趣旨によく合致するものでなければならない。こうした観点から見て特に考慮を払うべき事項をあげると以下の通りである。
    • 1.個人と社会の調和ということ
      • 憲法第13条「すべて国民は、個人として尊重される」
      • −第24条第2項「法律は、個人の尊厳・・・に立脚して制定されなければならない」
      • −第14条第1項「すべて国民は、法の下に平等である」
      • −第12条「国民は、濫用してはならないのであって、常に公共の福祉のために利用する責任を負ふ」
    • 2.権力の行使の公正ということ
      • −第31条「何人も、法律の定める手続きによらなければ、その生命または自由を奪はれ、又はその他の刑罰を科せられない」
      • 国民各自に対する国家の権力行使は制限されるべきである。
    • 3.社会秩序の安定性の確保ということ
      • 社会の実体からかけ離れて、むやみに実定法を改変したり、制度の改革を考えることは避けなければならない。特に、刑罰規定不遡及、権利義務に関する法規については公布日と施行日に猶予期間を設けること、既得の権利ないし地位を尊重するため経過規定を設けることなどが必要である。
  • 立法内容は他の制定法と統一整序が必要である。矛盾する場合は、既存の法律内容を調整・改廃することが必要である。
  • 矛盾抵触がある場合の対応には4つの原理がある。
    • 1.所管事項の原理(法令にはそれぞれの受持ち分野がある)
    • 2.法令の形式的効力の原理(上級の法令は下級の法令に優先する)
    • 3.後法優越の原理(同等の法形式の間では後法は前法を破る)
    • 4.特別法優先の原理(同等の法形式の間では特別法は一般法に勝つ)

○第四章「法令間の矛盾抵触を解決するための諸原理」

  • 法律事項(あるいは条例事項)を、政令・府省令(あるいは規則)に委任してしまうことは、それを法律や条例の専属的所管事項と決めたことを無意味にしてしまう。しかし、それが包括的かどうかは一概には言えない。たとえば外国為替・外国貿易に関することがらの規制などは、外国の状況に応じて臨機の処置が相当な幅でとれることが必要であるし、沿岸漁業のやり方などは、地方によって千差万別であるため、法律による一律の規制にはそぐわない。こうしたものは政省令への委任や条例への委任が必要となる。
  • 憲法第94条は、「地方公共団体は、・・・法律の範囲内で条例を制定することができる」として自治立法権を保障しているが、これを受けて地方自治法第14条は制定できる法形式として条例、規則を定めている。なお、人事委員会などの独立的執行機関も規則を定めることができる。

○第五章「法律解釈の基本原則と法令の立案との関係」

  • 法律解釈とは、具体的な事件において、その場合に適用されるべき法は何かということを探し出し、知ることである。依拠すべきは成文法であるが、成文法令は原則として一般的、抽象的な記述となる。したがって個別の事案に具体的に法令を適用するにあたっては解釈が必要、というのが通例である。
  • 法令の解釈には、法令の文言に主眼をおく「文理解釈」と、それ以外のいろいろな道理に主眼をおく「論理解釈」があるが、基本は文理解釈であるべきである。

○第六章「行政指導と指導要綱」

  • 現行憲法下における行政は、法に基づき法を執行することであるとされている。したがって法令に定めのない事柄に行政機関は手を出す必要はないし、手を出すべきでないというのが原則である。しかし、一方でそれでは済まされない場合もしばしばありうる。法制とのギャップを埋める方法として「行政指導」がある。行政指導は、行政機関がやってもらいたいこと、やってもらいたくないことを任意の協力を期待して働きかけることである。
  • 行政指導は、根拠規定のある場合は問題がないが、法令上根拠のない場合でもその行政機関の組織法令上の任務の範囲内においては行いうるものと考えられる。
  • 指導要綱をつくって行政指導している例も多くあるが、それが多くの住民に望まれているものであったとしても法的な効力は持ちえない。したがってその中に法的強制にあたるような内容を入れることは不当である。

◎第二編「立法形式論」
○第一章「用字と用語」

  • 用字・用語にはいくつかの原則がある。
    • 1.口語体、平がな書
    • 2.常用漢字の使用
    • 3.現代かなづかい
  • 民法、商法、刑法、民事訴訟法、健康保険法などには文語体の法令が相当数現存する。現行憲法は口語体、平がな書であるが、旧かなづかいを使っている。

○第三章「法令の各条項の書き方に関する基本原則」

  • 法令の主体は本則と附則で構成される。本則は法令の本体であり、附則はその法令の施行期日、その法令の規定の適用関係などの付帯的部分である。第4字目に附と書き、一字空けて則と書く。
  • 条・項・号:項には頭に算用数字で2、3、4と記す。第一項には1と記さない。
  • 各条文に見出しをつけることが例になっている。
  • 改正の内容がある法令の既存の条、項、号の一部の字句を改める場合には、「第何条中「・・・」を「・・・」に改める。」などと書く。字句を加除する場合には、「第何条中「・・・」の下に「・・・」を加える。」「第何条中「・・・」を削る。」というふうにする。

◎第三編「立法実体論」
○第一章「総説」

  • 通常、本則は、実体的規定、補則・雑則、そして罰則といった構成が原則的な組み立ての順序であり、最後に附則が加えられる。

○第二章「総則的規定について」

  • 近頃の法令、特に法律は最初に立法目的を簡明に要約した条文がおかれる。前文がある場合にはこれと重複することからおかれない。
  • 目的規定の見出しは、たんに「(目的)」としても「(この法律の目的)」としても構わない。
  • 目的規定ではなく趣旨規定をおく場合もある。
  • 目的規定の後に定義規定がほぼ例外なく設けられている。基礎的・重要な用語や、一般の用法とは多少違う意味を持たせる場合など。定義規定は特に厳密・明確であることが求められる。

○第三章「実体的規定について」

  • 許可、特許、認可、確認、公証という用語はそれぞれ固有の意味を有している。

○第四章「雑則的規定について」

  • 雑則に包含されるものとしては、報告の徴取、立入および質問、聴聞、処分の附款、不服申立てと訴訟、損失補償、権限の委任、手数料、関係人、参考人等の意見聴取などがある。

○第五章「罰則について」

  • 罰則とは、ある法律上の義務の違反があった場合に、その違反者に相当の罰(刑罰または秩序罰と言われる過料)が科せられることを予告し、義務違反の発生を予防し、義務違反があった場合には予定された罰を科することを定めた規定である。
  • 法令立案にあたっては、罰則規定を設けるかどうか検討されなければならない。義務規定について罰則を設けるわけだが、義務規定であればすべて罰則を設けるべきものというわけではない。
  • 法人の代理人などが行った行為について罰するときは、属する法人自体も罰する「両罰規定」をおく。

○第六章「附則について」

  • 附則に規定すべき主な事項は、法令の施行期日、その法令の各規定の適用関係の規定、経過措置、関係法令の改正・廃止の措置等である。また、施行地域に関する規定や有効期限に関する規定もここで記述される。