橋本治『日本の行く道』集英社新書、2007年12月

日本の行く道 (集英社新書 423C)

日本の行く道 (集英社新書 423C)

■内容【個人的評価:★★★−−】
○はじめに

  • 今の自分が世の中と関わっていないわけでもない。にもかかわらず、世の中は自分とは関係のないところでわけの分からない動き方をしているという感じ方=疎外感は、1950年代あたりから一般的だった。しかし、あくまでもそれは個人的なものであったのに対し、現在はそれが共有されるものになってきている。
  • たとえば地球温暖化がその例にあてはまる。誰が悪いわけでもないが、みなおかしいと感じるようになっている。しかし、地球温暖化には原因がある。一方、世の中がおかしいという方はあまり原因がはっきりしていない。この本では、その原因を明確にしてみたい。

○第一章「「子供の問題」で「大人の問題」を考えてみる」

  • 未来を考えるということは、子供たちがどうなるかということを考えることでもある。過去の積み重ねのうえに未来がある。過去を振り返りながら未来を展望してみたい。
  • いじめの問題がクローズアップされている。昔と今のいじめは違う、あるいは今の子供はいじめに耐えられなくなったという話を聞く。昔と今の違いとはなんだろうか。それは自殺という手段を選ぶようになったということである。
  • いじめで死を選ぶのは、親という庇護者の手から離れてしまっていることを意味する。死を選んだ子供は、自分がいじめられていることを親に訴えられなかったケースが多い。自分が家の外で敗者になっていると簡単には訴えられないからである。
  • 日本では一年に3万人が自殺する。なぜそれほど多くの人が自殺するのかということについては、子どもの自殺と共通する面がある。社会に軸足を置きすぎているからである。
  • 子供が、「ませた子供」にはなるが大人になるという過程を経ていない。今でも大人の多くは子供なのである。自主的な判断ができない。世の中が便利になりすぎて、面倒なことを考える必要がなくなってしまったからである。

○第二章「「教育」の周辺にあったもの」

  • 日本は格差社会に突入したといわれるが、実際に訪れたのは、あるレベルから外れたら生きていきにくくなるという「隔差社会」である。孤立した人が死を選ぶようになっている。自助努力という言葉だけが信奉され、どうしようもできない人はそのままに捨て置かれてしまう。思いやりのない社会である。
  • 障害者自立支援法などは、自立するための施設の利用料金を自立できていない段階で徴収している。生活保護の打ち切りも問題となっている。
  • 自分の自立ばかりに目が行っていて、他人との関係がおろそかになってしまっているのだ。

○第三章「いきなりの結論」

  • 産業革命前に戻せば地球温暖化は回避される。
  • 超高層ビルも壊して、人口は地方に分散させる。徳川300年の統治を見習った方がよい。ヨーロッパではアメリカと違って超高層ビルは立てない。あれは老朽化したときにどうやって壊せばよいのか。建設会社がある今のうちにやっておいた方がよい。
  • もともと日本の昭和30年代には高層ビルなどなかった。1968年の霞が関ビルが初めての高層ビルである。
  • 貿易戦争にも勝たない方がよい。そうすれば農産物の輸入をする圧力も弱まり、国内の農業は伸びるだろう。
  • 官僚は国家のためという前提に立って国民に変わって考えるという役割を担ってきた。これを国民が自ら行うのであれば、国民が成熟することが必要である。官僚が腐敗しているとすれば、必要なのは国民が敬意を払われるような「ご主人さま」として登場しなくてはならない。

○第四章「「家」を考える」

  • 豊かさがもたらされて人は弱くなり、機械を導入することで人が排除されている。

■読後感
豊かになること、便利になることに何らの懐疑をはさまずに来ているわれわれだが、実は今の豊かさとは両刃の剣のようなもので、人間として生きる力を弱めたり、疎外が一般的、自殺も多い社会を形成している。
豊かさについてスミスから学ぼうとして結局できなかったわけだが、ここでは豊かさを根本的に問い直している。
何もかも便利で自動でできるようになると人間は極端なことをいうと快楽しか求めなくなる。そんな経済成長より、手ごたえのある仕事を常にできる環境を保つほうがよいのではないか。