読売新聞医療情報部『数字でみるニッポンの医療』講談社現代新書、2008年11月

数字でみるニッポンの医療 (講談社現代新書)

数字でみるニッポンの医療 (講談社現代新書)

■内容【個人的評価:★★★−−】

  • どの病院の、どの医師が優れているかということについては情報はきわめて少ない。医療の値段は言うに及ばず、質も数字で表すことができれば、医療はもっと身近なものになる。
  • たとえば、心臓のバイパス手術をみると、手術件数の多い病院に比べ、少ない病院では死亡率は倍となる。

○第一章「日本の医療費は高いのか」

  • 日本の医療費は年間約33兆円で国民所得に占める割合は約9%である。諸外国では、アメリカが突出して高い割合(GDP比15%)となっている。
  • 日本の医療費は保険適用分であり、差額ベッドなどを含めるとさらに高い金額となる。
  • 医療費の内訳は、入院医療費が37%、通院医療費が39%、歯科医療8%、調剤医療費13%、入院時の食費3%となっている。
  • 医療機関の支出で見ると、人件費が48%となり、医薬品22%、医療材料費7%、給食などの外部委託費5%、その他光熱費や賃借料が19%となっている。
  • 日本の医療は薬漬け医療といわれるが、再診療や手術料などの点数が抑えられており、薬で利益を出す構造となっている。
  • 心臓病やがんなどの術後の成績をみると、明らかに多件数の手術を行っている病院の成績はよい。
  • 医療事故で死亡する患者は年間2万6千人である。
  • 救急車で運ばれる患者は年間500万人いる。そのうち、軽症者の割合は約50%である。

○第二章「身近な医療費」

  • 盲腸で7日間入院で50万円、乳がんで38日間入院で159万円、脳梗塞で60日間入院で272万円となる。
  • 保険のきかない医療、重粒子線治療が300万円、活性化自己リンパ球療法が100万円かかる。
  • 高齢の患者が90日間入院すると、入院費用が15%カットされ、定額に抑えられてしまうため、出ていって欲しいといわれる。
  • 差額ベッドは、患者が求める場合にのみかかる。空きがないからといってそうした部屋になる場合はかからない。
  • セカンドオピニオン外来については、30分1万円程度で保険外の自己負担となるが、有名病院ではこの倍〜3倍近くになることもある。
  • 謝礼を渡す行為は、あなたを信用していませんというメッセージにもなりかねない。きちんとした病院であれば受け取りは拒否する。
  • 保険での診療は公定価格であるにもかかわらず、明細の分かる領収書を出している医療機関は少ない。2006年にようやく領収書の発行を義務付けた。
  • 歯科医療は、保険診療であれば1回数千円で収まるが、差し歯や入れ歯、インプラント、矯正になると負担がいきなり跳ね上がる。

○第三章「高齢者と終末期医療」

  • 自宅で亡くなる人の割合は、1951年には80%だった。2006年には14%となっている。

○第四章「がん・生活習慣病

  • 現在では、がんの半数は治るといわれている。ただし、すい臓がんでは5%、乳がんでは80%、子宮がんでは70%など、部位によって違いがある。
  • がんが治ったかどうかは、厳密に確かめる方法がない。直径1センチのがんには10億個前後のがん細胞が含まれている。がんの再発は治療後2〜3年以内に起きることが多く、5年を過ぎると少なくなる。
  • 重粒子線による治療は一回300万円かかる。施設の建設費は100億円である。
  • 抗がん剤については新薬が続々登場しているが、現実にはそれほど効果を上げているわけではない。

○第五章「心の病気」

  • 2007年の自殺者は3万3千人を超えた。交通事故死者数が5700人なので、その6倍近くになる。10万人あたりの自殺者数は24人で、アメリカの倍以上である。日本より高いのは、ロシア、リトアニアベラルーシなど東欧諸国だけである。
  • 自殺の動機をみると、健康、経済、家庭、勤務の順となっている。より細分化すると、「うつ病」「身体の病気」「多重債務」などとなる。自殺者の95%以上は、何らかの精神疾患、具体的にはうつ病、アルコール依存、統合失調などとなっていた。本人が自殺すると周囲も心理的なダメージを受ける。2006年6月には自殺対策基本法が成立した。
  • 認知症の患者は445万人である。65歳以上の10人に1人が患者である。認知症の50%はアルツハイマー型で、脳にベータアミロイドというたんぱく質が沈着するのが特徴である。

○第六章「出産・子育て」

  • 2005年には初めて出生数を死亡数が上回った。
  • 少子化の原因としては、晩婚化と働きながら育てることのできる環境が整っていないこと、定職につかない若者が増え、経済力がないことなどによる。
  • 不妊カップルは7組に1組である。晩婚化や男性の精子の減少が原因して、増加傾向にある。
  • 人工受精は一回2万円程度である。これに対し体外受精は30万円、顕微受精はさらに高くなる。自治体は国の補助を受けてこれらに10万円程度の補助を行っている。今やそうした形で生まれる赤ちゃんは2万人で50人に一人である。
  • 正常分娩で分娩・入院にかかる費用は30万円から50万円である。
  • 帝王切開は6人に一人である。
  • 年々生まれてくる赤ちゃんは小さくなっている。1973年の男子3.25キロ、女子3.16キロを境に小さくなってきており、2006年には男子3.05キロ、女子2.96キロである。これは不妊治療による多胎児の増加、女性の間で強いやせ願望などが原因している。

○第七章「医師の姿」

  • 医師の偏在が進んでいる。これは2004年に始まった新臨床制度による。医師免許を取得後2年間の研修が義務化されたがその研修先を自分で選べるため、雑用を押し付けられる大学ではなく、多くの患者を診療する機会のある都会の一般病院を選ぶようになった。
  • 大学医局が凋落し、そこから医師を派遣されていた地方の一般病院も疲弊した。
  • 医師の疲労は当直制度による部分が大きい。日常の診療をこなした後で徹夜体制で急患の診療に備える。当直は労働基準法上はほとんど仕事らしい仕事のない状態を想定しているが、実際は不眠不休で当直に当たっている。こうした労働環境の悪化は、小児科、産科、外科、内科などで急速に進んでいる。
  • 医師になるには、国立では年間50万円で済むが、私立などでは1400万円かかる。開業医の月収は211万円である。これは公立病院の院長を上回る。
  • 製薬企業からの寄付金は年間262億円になる。

○第八章「検査大国」

  • 世界のCTの三分の一は日本にある。
  • 検査に使われる放射線は発がんの原因ともなるという論文が発表された。過剰な検査は控えるべきであろう。
  • 年間100万人がなくなるが、原因が明確にわかっているのは3%である。

○第九章「薬を巡るあれこれ」

  • インフルエンザの特効薬として登場したタミフルは世界の七割を日本で使っている。これは異常な数値である。また、副作用も無視できない。どちらかというと、インフルエンザや風邪は薬ではなく、水分補給と安静により治すという養生の基本に立ち返る必要がある。
  • ジェネリック医薬品は8割安いが普及は進んでいない。