広中平祐『生きること学ぶこと』集英社文庫、1984年3月
- 作者: 広中平祐
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 1984/01
- メディア: 文庫
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- 人間の脳は、過去の出来事や過去に得た知識をきれいさっぱり忘れてしまうようにできている。それなのになぜ苦労して学び、知識を得ようとするのか。それは知恵を身につけるためではないか。
- 知恵を持つことにより、ものごとを深く見つめたり、決断力をつけることができる。
- 学問は退屈というイメージがあるが、本来たのしく、喜びを味わえるものである。考えることはさらにたのしい。最高にたのしいのはものを創造する行為である。自分の才能・資質を掘り当てたり、自分を深く認識理解することは喜ばしい。
- 自分の数学者としての研究の多くは、代数幾何上の「特異点の解消」に関するものであった。(たとえばジェットコースターが地上に落とす影の線どうしが交差する点)
- しかし自分の研究は特異点解消にばかり費やされたわけではない。いくつかの取り組みがある時点から特異点解消へ収束していった。
- 今日まで、世界のあちこちで、思わず寒気を覚えるほどの天才を何人かこの目にした。
- 自分の父親は商人であり、独力で切り拓くことを大事にしていた。一方母親は、自由放任だが、最悪の事態だけは避けようとしていた。母親からは、考えること自体に意味があるということを教わった。
- 生活上、仕事上でもどこから手をつけてよいかわからない大問題が現れたときに頼りになるのは自分の思考力である。
- 小さな成功を積み重ねることで、初めて人間は自分の道を歩み続けていけるのではないか。
- 大学の修士課程に進むと、試験でいい点をとる、高度の理論を理解するだけではだめで、何かを創造することが求められるようになった。
- 最初の論文は酷評されたが後の創造へのきっかけとなった。また、美しいと賛辞を受けた理論を構築したが後にパラメータを増やす中で行き詰まり、その理論を若い研究者が既存の定理を使って証明し、仰天したこともあった。これは美しいと賛辞を受けたためにその方法に固執してしまったことが敗因だった。
- 目標を立てることは大切である。これはその人間のエネルギーとなる。
- 問題を解くうえで、大切なのは単純明快ということである。
- 特異点解消に関する論文を完成させたとき、わかったのは、すべてのこれまでの取り組みはここに向けて行っていたのだということである。
- 何かの行動を起こす中で自己を発見していく。これが大切なプロセスである。
- また、さまざまな人間と関係することが自分の未知の部分を発見できる。文化、言語、慣習、歴史も違う外国人と交わることは自己発見に有効である。
広中氏は、特異点解消の取り組みの中で、自分の居場所を見出し、さらに、深めることができた。
職人をうらやましいと思う気持ちはこれに通じるものがある。その人にしかできない「居場所」があるということなのだ。やりがいのあるそうしたテーマを見つけ掘り下げることこそその人を輝かせるものになる。