UCS[アメリカ 憂慮する科学者連盟]編『エンプティ・プロミス−SDI構想の破綻−』日本評論社、1987年8月

エンプティ・プロミス―SDI構想の破綻

エンプティ・プロミス―SDI構想の破綻

■内容【個人的評価:★★★−−】

  • レーガン大統領は、ヒロシマ以後の時代の多くの政策立案者が望んだように、恐怖の均衡を防衛によって、つまり核ミサイルで破壊されるまえに迎撃する技術によって代えたいと願った。スターウォーズ計画は、宇宙配備システムを想定するもので、ブースト段階でソ連の弾道ミサイルを、そしてポストブースト、中間段階、再突入段階で核弾頭を迎撃するというものである。
  • SDI計画の実際の目標は限定防衛、つまり軍事目標を守る防衛にある。国民を核攻撃から救う完全防衛ではない。

○第一章「スターウォーズの政治学」

  • 国防総省のBMDプロジェクト担当者は化学(赤外線)レーザーよりも紫外線レーザーやX線レーザーを重視していた。ところが大統領の科学顧問のジョージ・キーワースは核励起X線装置は計画の中では重要な役割は果たさないと断言している。
  • 10年間の研究開発におよそ700億ドルの値段がつくことになる。

○第二章「科学者とスターウォーズ

  • SDIは非防衛部門における有能な技術者不足をさらに悪化させるであろう。何十億ドルもの金を軍事的なエレクトロニクスの研究に投資しているのでアメリカの消費者向けエレクトロニクス産業は、日本や韓国、台湾、その他の新興工業国の競争力に押されている。

○第三章「もつれるネットワーク−SDIの指揮と管制」

  • 戦争は予想できない混沌としたものだ。戦争ではさまざまな事件が急激に起こるので、司令部に届く情報は不確実で矛盾したものになりがちである。クラウゼヴィッツはこうした状態を「戦争の霧」と書いている。この「霧」の中で作戦展開を試み、不確かな戦争を管理しようというのが軍隊の指揮・管制システムの重要な機能なのである。
  • 中央集権的な意思決定と分権的意思決定にはそれぞれ特長があるが、ヴァン・クレベルドは、一般的に見て、非集権的な司令部機構の方が軍事作戦の展開を成功裡に進められるとしている。

○第四章「ソフトウェアは信頼できるか−SDIとコンピュータ・システム」

  • 戦闘管理システムのソフトウェアの仕様を作成し、テストし、維持することは、これまで民間ないし軍事用ソフトウェア・システムを生産するために行ったいかなる仕事よりもはるかに複雑で難しい仕事である。
  • 主として以下の要件が満たされていなければならない。
    • 1.システムの冗長性
    • 2.ソフトウェアの耐故障性
    • 3.部分テストとシミュレーション(全面テストはできない)
  • プログラムは2461万行だと推測されている。

○第五章「致命的な矛盾−SDIとASATの連鎖」

  • スターウォーズ構想では、ICBMへの攻撃装置は宇宙空間におかれる。宇宙空間に、兵器、ミラー、センサー、コンピュータそれぞれを搭載した衛星が配される。これを利用して、ソ連ICBMを10個以上の弾頭やおとりに分離される前のブースト段階に破壊することが基本である。
  • 赤外線レーザーはエネルギーの充填が必要であるが、それを臨機応変に行うことはできない。

○第六章「ソ連の反応−新型ミサイルと対抗手段」

  • 攻撃側は、防衛手段を数量で圧倒したり、低空を飛んだり、出し抜くなど防衛側に対抗する手段はいくらでもある。
  • たとえばおとりのブースターは発射中に揺れるが、これを無視するようプログラミングされているとすれば、本物のブースターを発射中に揺らし、かつ正確に命中するように作ることで対抗できる。

○第七章「語られざる目標・限定防衛」

  • 先制攻撃を抑止するという目標からすると、SDI計画は逆効果である。
  • 攻撃手段を守るためのものでしかない。

○第八章「スターウォーズに揺れるヨーロッパ」

  • SDI構想にヨーロッパは関心を示したが、巨額の開発費などハードルが多く、またあまりに長期の計画であり現実性が低いと考えている。

○第九章「軍備管理とSDI−防衛移行計画は可能か」

  • 攻撃兵器主体の核体制から防衛主体の核体制への移行は極端な不安定性を特徴とする可能性が強い。

○第十章「スターウォーズは死滅したか」

  • スターウォーズを妨げているのは、計画固有の難しい問題である。解決不可能な戦闘管理、ソフトウェア、脆弱性の問題、予期せぬ脅威に対処する能力を持っていないこと、肝をつぶすような経済コストである。不可避的に出てくる結論はスターウォーズ計画は死んだということだ。
  • 将来の政権は、おそらくスターウォーズをそれ相応だが式典もなく葬り去ることだろう。