宗像恒次『エイズの常識』講談社現代新書、1993年1月

エイズの常識 (講談社現代新書)

エイズの常識 (講談社現代新書)

■内容【個人的評価:★★★−−】

  • エイズは空港などの水際で食い止めることは不可能である。人々の知識向上やセーファーセックスの定着などの予防策を徹底するほか手はない。感染者数が10万人単位になってから対策を本格化しても効果的に防ぐことは不可能である。
  • キューバではエイズ感染を国民全員に実施し、感染者は隔離される。

○第一章「感染爆発の可能性」

  • 日本は、エイズにあまり関係のない国という印象を持たれているようだが、エイズの知識について国際比較調査を行ったところ、アメリカ人やギリシャ人と比べかなり低い状態にある。
  • 日本人男性の場合は、買春旅行でタイで感染してくる例が多い。
  • 1992年6月現在、感染者は1200万人に達している。タイでは2000年には300〜600万人に達するという推計がなされている。それより感染爆発が進んでいるのがインドである。

○第二章「エイズとは何か」

  • 最初のエイズ患者は1981年6月、米国で発見された。若い男性同性愛者であった。
  • 1986年にウィルスが発見され、HIV(ヒト免疫不全ウィルス)と正式に名付けられた。このウィルスは主として性分泌液(精液、膣分泌液)と血液により感染する。経路は、性感染と注射針の回し打ちがほとんどを占めている。
  • われわれの生活する環境にはさまざまな微生物が充満しており、これらから身体を守っているのが免疫系の働きによる。たとえばがん細胞は発がん物質がなくても自然の突然変異で発生するが、免疫系はそれを抑制する力を持っている。
  • エイズウィルスは直径1万分の1ミリメートルという非常に小さい粒子であるが、これはT4リンパ球の核に入って自分の遺伝情報をコピーし、エイズウィルスを再生産する。一方でT4リンパ球を破壊するために免疫系全体が力を失っていくことになる。

○第三章「行動病としてのエイズ

  • エイズの感染源は、血液、性分泌液、母乳の三つである。
  • 以前は汚染された血液製剤が感染源となったが、今では熱処理されているためこれにより感染することはない。
  • 輸血による感染については、現在献血された血液はHIVの検査をしているので99%ありえない。しかし、検査体制の整っていない国で輸血を受けた場合は、エイズ感染の可能性が十分にある。
  • 性交に関していうと、肛門性交は、膣性交に比べ二倍感染しやすい。肛門には大量の抹消血管があるためである。膣性交では粘膜や傷を通して感染する。また、女性が生理中の場合は男性は感染しやすい。オーラルセックス、クンニリングスでも感染する可能性はある。
  • もう一つの感染ルートは、母子感染である。
  • 唾液による率は低い、蚊やダニを通じた感染はほとんど起こりえない。
  • エイズウィルスの感染力はインフルエンザよりはるかに弱い。したがってプールや風呂に一緒に入ったからといって感染するわけではない。
  • 現在の感染ルートは、膣性交が70%、肛門性交が10%、血液感染が3〜5%、母子感染5〜10%、薬物注射5〜10%であり、圧倒的に性交によるものが多い。
  • 大都市の日本人成人の7%が今までに性感染症と診断を受けたことがあると回答している。そのうち淋病が45%、尿道炎32%、クラミジア12%、陰部ヘルペス8%、梅毒4%である。こうした人はエイズウィルスに感染しやすい。
  • 男性で19%、女性で8%が不特定のパートナーとセックスを行っている。とりわけ20〜24歳の男女の性行動は活発である。

○第四章「エイズの症状とその対処法」

  • エイズウィルスに感染すると、6〜8週間後には血液中に抗体ができる。その後、半年から10年を経て、約半数の人が1カ月にわたり発熱が続いたり全身のリンパ節が腫れ続けたり、体重が10%以上も減少するなどの症状が続く。
  • エイズに感染した後も、日常の生活態度として、バランスの取れた食生活、ストレスを避けること、健康な生活などにより発症を遅らせることができる。
  • 最近の精神神経免疫学では、強いストレスがかかったときに、リンパ球の増殖率が落ちたり、キラー細胞の食機能が落ちることがわかってきている。情緒的に安定しており、自分に自信を持つことが関係を持つのではないか。

○第五章「HIV検査」

  • エイズウィルスに感染してから発症するまでの期間は平均で8〜10年、長い人では20年ある。エイズに感染するような行為を行った人は自分の将来、パートナーのことを考慮し、検査を受けるべきである。
  • 検査はすぐに終わるが結果が出るまでに二週間かかる。心苦しい期間ではあるが、これからの生活を真剣に考えられる機会でもある。
  • エイズ検査は医療機関と保健所で受けられる。健康保険はきかない。料金は1万円程度である。保健所だと安くできる。また保健所であると匿名で検査してもらえる。
  • 検査を受けることで二次感染を防いだり、発症を遅らせるための対策をとることができる。

○第六章「エイズの予防策」

  • 100%ということではないが、コンドームを使えばほぼエイズを予防できることは間違いのない事実である。

○第七章「エイズと共に生きる」

  • エイズ感染者に対する態度が、さまざまな差別となって現れている。エイズに対する無理解がこのような行動につながっている。