河合隼雄『無意識の構造』中公新書、1977年9月

無意識の構造 (中公新書 (481))

無意識の構造 (中公新書 (481))

■内容【個人的評価:★★★★−】
○1「無意識へのアプローチ」

  • フロイトは、ヒステリー(たとえば耳が聞こえなくなる、など)の心理的メカニズムを明らかにした。ヒステリーには原因として心的外傷があり、これを意識の外に追いやることを「抑圧」と名付けた。ヒステリーの治療は、抑圧されている外傷体験を見いだし、意識化することから始まるとした。
  • フロイトユダヤ人である。ユングフロイトの『夢判断』を読んで感激し、1907年にはじめて二人は出会って13時間も休みなしに話し合った。二人はともに無意識の世界に魅せられていたが、1913年を境に二人はきっぱり別れてしまった。
  • フロイトエディプス・コンプレックスエレクトラ・コンプレックスを含む)をもっとも根源的なものとしてとらえた。これに対し、アドラーは、性の衝動よりも権力を求める欲求の方が根源的であると考え、劣等感の存在をもっとも根源的なものとしてとらえた。
  • フロイト神経症者の治療を主としていたが、ユング精神分裂病者に接することが多かった。ユングは分裂病者に接するうちに、フロイトの理論ではどうしても説明できないと感じ始めた。
  • 分裂病者がユングに対し、太陽のぺニスが見えるとしたが、これはギリシャ語で書かれた古いミトラの祈祷書の話と同じであった。こうしたことから、人間の無意識の層は、個人的無意識のみならず、他の人間とも共通に普遍性のある普遍的無意識が存在すると考えるようになった。

○2「イメージの世界」
○3「無意識の深層」

  • ユングは無意識の深層に、さまざまな元型が存在するものと考えた。それが、グレートマザー、影、アニマ(アニムス)、自己などである。このほかにも、始源児、老賢者、英雄、トリックスターなどの元型がある。これらには明確な概念規定はなく、あくまで隠喩によってのみその意味を知ることができる。
  • たとえば、マリアや観音はグレートマザーの肯定的イメージである。

○4「無意識界の異性像」

  • 人間は外界に向けた自分の仮面を必要とする。それがペルソナである。ペルソナによって社会は円滑に動くが、これが強くなるほど、男性においては女性的な面(アニマ)、女性においては男性的な面(アニムス)が無意識界に沈んでいく。

○5「自己実現の過程」

  • 自己は無意識界に存在しておりそれ自身を知ることはあり得ない。しかし、シンボルという形で知ることはできる。それが老賢者、始源児である。
  • 自己はときに幾何学的な図形により象徴される。それがマンダラである。これは自己であるのみならず世界でもある。
  • 自己実現は、共通の基層をふまえ、個性として実現していくものである。

■読後感
ユングの、われわれ人類に共通する無意識層があるという仮説であるが、現代の精神疾患のある者が作り出す芸術作品が、なぜか古代の人々が作り上げたそれに似ているといった特性を見ると、そうした仮説も分からないではない。