畑村洋太郎『回復力−失敗からの復活』講談社現代新書、2009年1月

回復力~失敗からの復活 (講談社現代新書)

回復力~失敗からの復活 (講談社現代新書)

■内容【個人的評価:★★★★−】
○はじめに

  • 最初から失敗することを望んで行動している人はいない。ほとんどの人は自分ができることをちゃんとやっている。しかし失敗は起こる。
  • 避けようとしても起きるのが失敗であるとしたら、なんとかそれと付き合って乗り越えて生きていくしかない。
  • 人は大きな失敗から立ち直れるほど強くない。しかし、必ず回復力が備わっている。回復力を信じるためにいくつかのコツが必要である。

○第一章「人は誰でもうつになる」

  • 自分が東大で教員をしていたころ、工学部学生が飛び降り自殺をしたり、地下鉄への飛び込み自殺をしたりということが続いた。
  • 自殺を図った学生の多くはうつ病であった。うつ病になる代表的なパターンはおよそ三つあり以下のとおりである。
    • 1.目標喪失
    • 2.越えられない高い壁
    • 3.先が見えない
  • JAXAの理事長となった元JR東日本会長の山之内さんも、ロケットの打ち上げ失敗でうつになり、医師からはこれ以上仕事をすると過労死する可能性があるといわれている。
  • 失敗した人や失敗するリスクを負う人を必要以上に追い込まないようにするには失敗に対する社会の認識を変える以外にない。

○第二章「失敗で自分が潰れないために大切なこと」

  • まず「人は弱い」ということを認めよう。
  • 失敗直後はダメージを受けてエネルギーが失われているので、なかなかうまくいかない。焦っているためさらに失敗を重ねる。
  • エネルギーを失ったときは人は失敗に立ち向かうことはできない。どんなに強い人でもそれは同じである。
  • エネルギーが自然に湧き出るための方法としては以下のようなことがある。
    • 1.逃げる(責任放棄でなく一時避難)
    • 2.他人のせいにする(自己否定による思考の負の連鎖を食い止められる)
    • 3.おいしいものを食べる
    • 4.お酒を飲む
    • 5.眠る
    • 6.気晴らしをする
    • 7.愚痴を言う

○第三章「失敗したら誰の身にも起こること」

  • 失敗するとかならず「しまった」と思う。そして損をしたと思い、恥ずかしいと思う。
  • 失敗した人に対し正論を振りかざし、責め立てる人がいるが、聞きながら無視した方が良い。鈍感力は財産である。そしてできることをたんたんとやるのだ。

○第四章「失敗後の対処」

  • 失敗は素直に認めよう。
  • 失敗については自分が評価すると過小に、他人が評価すると過大になりがちである。
  • 失敗は、隠しても影響がないときは隠してもよい。しかし、自分から小さいものであると公言してはいけない。
  • 失敗を見るときには絶対基準が必要。それは、「お天道さまに向かって堂々と話せるか」である。
  • 大学教授は自由に見えるかもしれないが、そんなことはなくいろいろなものに縛られていた。定年を迎え始めて組織の論理に縛られない自由な立場で絶対基準に基づいて行動できるようになった。
  • 絶対基準を持って考えることに加え、客観的な指標も必要であり、それは物理的視点(ありのままに見る)、経済的視点(損得勘定)、社会的視点(社会の中でその失敗がどのようにみられているか)、倫理的視点(人としてやらなければならないことがなされているか)である。
  • 赤福の事件(2007年)は、健康被害が起きる可能性が非常に低かったことを考えると、あそこまで大騒ぎされ、無期限営業禁止を受けるほどの案件だったのかという気がする。
  • 自分に失敗の原因が押し付けられた場合、正論で抗弁するのも一つの方法である。自分の被害が一番小さくなる方法で対応したい。
  • 失敗を隠すことが必ずしも悪いとはいえない。しかし、隠した事実を正確に把握していることが必要である。また、失敗が拡大再生産されそうなときは、自分の失敗をすぐ回りに知らせるべきである。
  • マスコミと接するときは、相手が知りたいと思う情報を迅速かつ正確に伝えるべきである。隠したり遅らせたりは相手を疑心暗鬼にさせてしまう。マスコミも明日の紙面を正確に作りたいのだ。これをよく知って情報伝達したい。
  • 失敗した直後にポジションペーパーを作る。これは、失敗の経緯や原因、あるいは企業としての考え方など情報発信の骨格となる事柄を記した書面のことである。原因がわからないときには、「原因は調査していますがまだわかりません」とちゃんと説明する方がよい。
  • スーパーカミオカンデの事故では、こうした対応が的確で、破損した部位の写真、対策委員会の議事録、配布資料など様々な情報をインターネットで公開した。

○第五章「失敗に負けない人になる」

  • 大切なのは生き続けることである。周りからの責任追及につぶされないようにしたい。そして最終目標を見据えてフレキシブルに動きたい。
  • 自分のやっていることに自信を持つことである。自信には必ずしも根拠がなくてもかまわない。
  • 失敗は記録しよう。どう考えてどう行動したかを後々まで覚えておくことである。
  • 失敗した直後はひとつの方向から否定的な見方しかできない。時間が経つと柔軟な見方ができるようになる。
  • 人の力を借りよう。ただし、ギブが3でテイクが1くらいだと考えておこう。

○第六章「失敗の準備をしよう」

  • 失敗への対処は起こってからでは考えられない。起こる前に準備しよう。自分なりにいろいろと考えたうえでの失敗だと割り切りも早い。
  • 失敗したときの風景を思い浮かべよう。
  • どんな状況になっても、絶対やってはいけないことは人を陥れるズルやインチキ、絶対やらなければならないことは決めたことを愚直にやり続けることである。

○第七章「失敗も時代とともに変わる」

  • かつての日本ではうまく行って当たり前という風潮であった。
  • 現在の日本では、失敗の評価をきちんと行うようになってきた。しかしまだ過剰に反応しがちである。
  • コンプライアンス法令遵守と訳しているが、本来は柔らかさ、柔軟性などの意味も持っている。社会に順応し柔軟に動くことこそコンプライアンスではないか。

○第八章「周りが失敗したとき」

  • 人命優先のためであればインチキも許されると考えている。
  • 追い込まれている人に、もっと頑張れ、もっと元気を出せという励ましは絶対にやってはいけない。
  • 辛いときに必要なのは、そのものと正対するだけのエネルギーを蓄積することである。

■読後感
この本の読みやすさときたらどうだろう。簡単に要約を作ることができてしまう。まず骨格がしっかりしているせいだろう。