池上彰『わかりやすく〈伝える〉技術』講談社現代新書、2009年7月

わかりやすく〈伝える〉技術 (講談社現代新書)

わかりやすく〈伝える〉技術 (講談社現代新書)

■内容【個人的評価:★★★★−】
○はじめに

  • 相手の立場に立った説明、それこそが必要であるのに、生半可な専門用語を駆使して関係者しか理解できない説明になりがちである。とりわけ役所の文書には、誰のための説明なのかまったく分からない文章の羅列が登場する。
  • 聞き手の時間を無駄遣いさせる発表として、配布資料をただ読み上げるだけの発表がある。

○第一章「まず「話の地図」を相手に示そう」

  • 分かりやすい説明とは、まず相手に地図を渡すようなものだと考えている。これを放送業界では「リード」と呼ぶ。つまりこういうニュースですよ、ということをはじめに伝えることである。
  • 「これから○○分間、何々についてお話します。私が言いたいのはこういうことです。」と言ってから、「そもそも・・・」と続けてはどうでしょう。相手は目的地がわかるので途中のルートも聞く気になる。
  • リードには5W1Hは必要ない。「きょう午後、東京都内で殺人事件がありました」というようなおおざっぱな表現でよい。これは聞き手に、「ねえねえ、いまから大事な話をするから聞いて」と呼び掛けることなのです。
  • 発表したい内容を箇条書きにして「見える」化し、さらに「階層化」により細分化しよう。

○第二章「相手のことを考えるということ」

  • 分かりやすく伝えることがブームとなっている。
  • 苦労してつくったパワーポイントを全部見せたいと思うだろうが、それでは聴衆は文字を追うのに精いっぱいで心に届かなくなる。パワーポイントには大事な要素だけを書き、あなたの声で補足するコメントをつけよう。そうすれば映像と音声のコラボレーションとなる。
  • 場数を踏めば誰でも落ち着いてしゃべれるようになる。

○第三章「分かりやすい図解とは何か」

  • キャスター時代に学んだことは、
    • 1.自分が最初の視聴者になって考える
    • 2.何でも図解してみる
  • 一つの文を短くしよう。短い文にすると文章がうまくなる。また短くした結果伝わらなくなるのは、論理的に筋が通っていなかったということである。
  • フリップというもの(この言葉を一般の人の前で使うのは良くない)を使って図解したものを提供する。
  • 本当に理解していればざっくりと説明できるものである。アジア経済研究所の酒井啓子さんはそうした説明ができる人だった。
  • もしあなたが職場や自分の会社・組織について分かりやすい説明ができなかったとすれば、それはあなたの理解が不十分だからかもしれない。

○第四章「図解してから原稿を書き直す」

  • 分かりやすくするための手法としてノイズをカットするということがある。(日本だけを表示する)
  • 原稿をつくろう。しかし、理想的な発表とは実は原稿を書かない発表である。手持ちがメモだけなら、説明は話し言葉となるが、原稿があると書き言葉を聞かされることになる。
  • メモは30分までならA4一枚で十分である。一時間半の講演でA4二枚半程度である。
  • メモは箇条書きで、どういう話からどのように持っていきどうまとめるかということまで想定する。
  • ざっと話したい要素を書き出す。リードを作る。目次を作る。一回書いてみる。どこを図解にするか考える。パワーポイントを作る。パワーポイントに沿った原稿に直す。その原稿を箇条書きのメモにする。
  • ざっくりした概念図はホワイトボードに書こう。
  • 矢印には、因果関係の矢印、時間経過の矢印、移動を表す矢印がある。これらを同じ矢印で描くと図がごちゃごちゃになる。色や太さを変えて描こう。

○第五章「実践編 三分間プレゼンの基本」

  • つかみの工夫が重要。たとえば冒頭で「来年度についての社内プロジェクトチームの最初の提案は、年間人件費を1400万円削減できるという話です。」とすればインパクトがある。
  • 単なるナマの数字を報告するばかりでなく、たとえば、その会議に12人出席していたとすると、「今ここの会議に12人いますから、4人はうんざりしているということですね。」といえばさらに具体的で分かりやすい。
  • パワーポイントは1枚40秒で見せよう。
  • 最初と最後のあいさつではパワーポイントは使わない。
  • 文にしないのがパワーポイントの鉄則。「社内会議を1時間までに短縮する」と書いては失敗。「会議は1時間!」とし、口頭では「社内会議を1時間までに効率化するという方針案をご説明します」という。文にすると見ている人は文を読んでしまう。そうではなくて、口頭で伝えるためにも文は作らない。
  • パワーポイントには最小限のことを乗せる。たとえばデータ掲載するときに去年との比較は口頭で良い。
  • パワーポイントの例
  • タイトル:会議は1時間!
    • 1時間35分
    • 8.3回=3日に1回
    • 結論でず 53%
  • タイトル:長い会議で被害!
    • お客さんに会えない
    • 単なるガス抜き!?
    • 資料の説明だけ
  • タイトル:来年2月からこうしよう!
    • 資料は事前に配布
    • 社内メール、共有ファイル活用
    • 必ず結論を
  • パワーポイントは、見ている人への説明でなく、考えさせるような内容に
  • 「お客さんに会えない」では、「会議に午後の時間をとられて外出予定を入れにくい。つまりお客さんにあえないということです。お客さんあっての会社なのに、これでは本末転倒です。」という話にできる。
  • リハーサルして再調整しよう。原稿を作ると、三分のつもりだったのに五分半かかったりなど長くなることがある。収めるには、去年のデータの比較などをざっくりと「去年に比べて減りましたが」くらいの表現に替えてしまう。
  • 現状、問題、提案といった構成とする。
  • 自分の腕時計を見てはいけない。机におくこと。
  • パワーポイントの最終に、「1400万円削減か!」などと大きな文字で一行書くと笑いを誘って終われるかも知れない。
  • 可能であれば一行ずつ読ませる。「みの式」プレゼンテーションで、まずは見出しのみがある。「どういうことでしょうか。まずは」というセリフの後に「資料は事前に配布」と画面に現れ、説明をし、続いて二番目の「社内メール、共有ファイル活用」が現れる。「そして」というつなぎ言葉の後に最後の「必ず結論を」を表示させる。みのさんは、「つまり・・・」といって一瞬の間をためる。見ている側をじらす。

○第六章「空気を読むこと、予想を裏切ること」

  • しゃべりの上手な人とはどんな人か。それはずばりと本質をつき、それを補足するのが上手な人である。第二に、奇抜ではないがありきたりでない違う視点を提供してくれる人である。上から目線にならない麻木久仁子さん、景気の話をしながら趣味の模型の話をする森永卓郎さんなどである。
  • 差異化した自分の持ち味を生かそう。
  • 人を笑わない、自分を笑いものにしよう。

○第七章「すぐ応用できるわかりやすく〈伝える〉ためのコツ」

  • 三の魔術を活用しよう。ポイントを三つに絞るということである。
  • 最後に冒頭のつかみに戻る。「1400万円改善できるという話をします。」のまとめには、「だから1400万円」と必ず戻る。
  • 時間が来たので終わります、は最悪の終わり方。最初につかみをいれておけば最初から結論をいい、最後にそこに戻るのが常道。ただし、1時間以上の話をする場合には最初に結論をいうと中座してしまう人も出てしまうので注意。
  • 笑いをとると効果的。ただしどう笑わそう、ではなくどうつかむかということで考えていくと自然に笑いが取れる。
  • 分かりやすい説明は、常に具体的である必要がある。そして一般化、抽象化も必要。話の内容を三つに分けた場合は、それぞれのまとめで抽象化をしよう。アカデミックなのは逆効果、せいぜい具体の一段上くらいの抽象化にとどめる。
  • 真正面に向かってあいさつし、テーマを左右見渡しながら伝える。
  • 視線を投げてくる人は応援団だと思って顔を見て話し、うなづきなどを確認する。
  • 「みなさん」に話すのでなく、「誰かキーパーソン」に話すつもりで話そう。

○第八章「「日本語力」を磨く」

  • わかりやすくつたえるためには、接続詞(そして、だから)は極力使わず、きちんと日本語として論理が通った文章を構成することが重要である。
  • ところで、は話が飛んでしまう印象を与える。話しは変わりますが、も同じ。いずれにしても、はせっかくこれまでした話をちゃらにしてしまう。
  • が、は逆接の意味だけに使う。「○○したいと思います」ではなく「○○します。」
  • 隠し味のように使えるマジックワードもある。「大変なんです」「つまり」「言い換えれば」
  • プレゼンテーションの場合は、「どうしても報告したいことがあるのです」としてつかみを構成し、さいごに「どうしても・・・」の部分をとってしまえばよい。
  • 新聞記事に「日本批判『謝らないと』」というクルーグマン教授の記者会見の記事が掲載されていた。こうした効果的な見出しを考え、そこから「ただいまから、日本批判について『謝らないと』いけない、という発表をします」と始めれば良い。
  • 聞き手がメモをとりたくなる言葉を。そのためにはキーワードを考えよう。そしてそのキーワードを生かした説明にしよう。

○第九章「「声の出し方」「話し方」は独学でも」

  • 腹式呼吸で話をしないと、声帯に負担がかかり、のどがかれてしまう。喉に力を入れず、腹から声を出す。そうすると自然に低音になり落ち着いたしゃべりができるようになる。口は大きくあける。

○第十章「日頃からできる「わかりやすさ」のトレーニング」

  • 愚直に情報を集めよう。
  • 解説記事の熟読により、記者がどう料理したかが伝わってくる。
  • わかりやすい説明をするためには相手の頭の中にある知識をどうつなげるかの論理構成ができればよい。自分の頭の中にあるばらばらなものがつながった瞬間、人は「あっ、わかった!」と叫びたくなるものである。
  • 自分がわかったことと、他人が理解することは同じではない。
  • 情報収集だけではだめ、自分でアウトプット=説明すること。
  • キャスターとしては久米宏さんが秀逸。間のとり方、「これってね」、三秒間をおき、「これはつまり・・・こういうことですかね。」と続ける。またあえて小さな声を使ったり、批判も最後まで言わず寸止めする。それが言外の効果を与える。
  • ありきたりのことば「政府には早急な対策を望みたいですね」などは使わない。意味がない。
  • 手本を見つけ、そして個性も織り込んでいこう。
  • 謙虚な気持ちで、なぜ自分は話が下手なのだろう、ととい続けることこそ大切。

■読後感
今やろうとしている研修会のポイント
1.基本的に仕事は変わらない
2.ただしインターフェースが変わる