宮崎義一『世界経済をどう見るか』岩波新書、1986年7月

世界経済をどう見るか (岩波新書 黄版 344)

世界経済をどう見るか (岩波新書 黄版 344)

■内容【個人的評価:★★★−−】
○プロローグ「いまなぜ世界経済なのか」

  • ナショナリズムを基調とする経済学の考え方に依拠している限り、資本主義経済の現実に対して正確な分析や診断はもちろんのこと、的確な処方箋を示すことも極めて困難になっている。

○1「新しい世界不況−なぜケインズ主義は有効性を失ったのか」

  • 主要七カ国の景気循環(1972-1983)は同じ波形を描いている。
  • なぜ世界大恐慌から脱出の道を提示しえたケインズ主義が、石油危機後の世界不況に対して有効性を発揮し得ないのか。
  • 1929年の恐慌は、激しい価格下落を伴っている。これに対し、1973年の第一次オペック不況は激しいインフレーションを伴い、世界同時に起きている。

○2「累積債務と絶対的貧困

  • 先進国も二極分化している。1973年の第一次石油危機により、先進国にはインフレーション、不況、経常収支の赤字というトリレンマを抱えることになった。先進国のうち、日本、アメリカ、西ドイツは1976年ころから一応脱出したが、イギリス、フランス、イタリアは1978年まで脱出することができなかった。
  • 第一次石油危機は、たしかに先進工業国に対して深刻な打撃を与え、またスペンディング・ポリシー内需拡大効果もむなしいものであった。
  • 高所得国の内部では、高額所得層の占める比率が低くなっているのに対し、低所得国では、逆に富が一部の高額所得層に偏在している。
  • 絶対的貧困マクナマラ)という言葉がある。人間としての条件に関するどのような妥当な定義に照らしてみても、程遠い栄養不良、文盲、疾病、高い幼児死亡率、短い平均寿命などである。それは低所得国の8億人の人々がこのような状態にあると予想される。

○3「債務国アメリカと債権国日本」

  • アメリカの対外債務はほとんどドル建てである。このため、ブラジル、メキシコのように債務支払い不能に陥る可能性は低い。
  • 石油価格の下落が引き金となり、大規模なオイルダラー還流現象がはじまると、戦後最大のデフレーションに陥る恐れが多い。

○4「2000年の日本と2000年の地球」

  • 多国籍企業が多く現れている現在、一国資本主義分析は限界を迎えている。
  • 環境破壊が進み、多国籍企業の世界においても地球環境の荒廃は救われない。新しいサブシステンスシステムが必要とされている。

○エピローグ「大世紀末に青い地球を!」

  • 青い地球の荒廃阻止、核戦争の阻止、こうしたもののうえに世界経済の未来像が描かれるべきであろう。