鈴木正俊『経済データの読み方』岩波新書、1985年7月

経済データの読み方 (岩波新書 黄版 307)

経済データの読み方 (岩波新書 黄版 307)

■内容【個人的評価:★★★−−】
○1「日本経済−全体像をみるデータ」

  • 昭和58年の国民総生産は275兆円(第一次産業3.3%、第二次産業38.7%、第三次産業58%)、国民所得は218兆円(雇用者所得155兆円、企業所得42兆円、財産所得34兆円)である。国民所得に占める雇用者所得の比率は40年代の約60%から58年の70%と高まってきている。
  • 国民総支出は275兆円で、個人消費が59%、投資全体(総固定資本形成)が28.6%、輸出14.3%、政府消費10.2%である。控除項目の輸入は12.4%である。我が国の輸入は7割が原材料であるため、輸入増加が成長率を低下させるということはない。
  • 国民所得の「三面等価の原則」からすると、国民総生産、国民所得国民総支出は一致するはずだが、国民所得のみ57兆円小さくなっているのは、減価償却費(40兆円)と間接税等(17兆円)が除かれているためである。
  • 国民総生産=国民総支出国民所得+間接税+減価償却費−補助金という恒等式が成り立つ。
  • 国民所得勘定は付加価値を合計したものだから中間投入を含まない。しかし産業連関表は中間消費、中間投入を含んでいる。産業連関表の国内総産出は604兆円とGNPの二倍以上に膨らんでいる。経済の各部門は網の目のように相互に連関しているから、各産業が生産のためにどこから何を投入し、何をどれだけ産出したかがわかる産業連関表は経済分析上大変有益である。
  • 一般政府は、石油ショックまでは資金が余っていたが、それ以降、税収増が少ない半面、国債費や社会保障関係費などの増加で赤字国債の発行を余儀なくされ、資金不足となっている。これに対し、家計は依然として大幅な資金余剰を続けている。58年は26兆5000億円のプラスである。高度成長期のように家計の大幅な資金余剰を法人企業が吸収している場合には何の障害も生じないが、近年のように家計の資金余剰を法人企業だけでは吸収できず、しかも政府も赤字国債の発行を減らすなどして資金不足を減らす努力をしている場合には経済はデフレ圧力を受けやすい。
  • 58年の国民資産は3225兆円である。実物資産が1627兆円、金融資産が1598兆円である。金融資産の伸びは実物資産よりも大きい。実物資産に海外との資産取引による対外純資産を加えた1638兆円が国富である。この10年で国富は2.6倍に増えたが、その半分は土地である。
  • GNPとGDPは定義上はっきりと区別される。新SNAではGDPが基本である。GNPとは、国内外を問わず、その国の人が作り出した所得である。これに対し、GDPは、その国の人か違う国の人かを問わず国内で作り出された所得である。(ただし、外交官や軍人のサービスはGDPには計上されない。)
  • 日本の場合GNPとGDPはそれぞれ275.3兆、274.9兆でほとんど差がない。しかし植民地を抱える国などは、GNPはGDPを大きく上回る。このためヨーロッパでは自国の経済規模を端的に示すGDPがよく使われる。
  • 日本の国民所得を地域ごとにみたのが県民所得である。各県の所得格差は驚くほど大きい。トップの東京都は263万円、最下位の沖縄県は124万円である。東京や大阪の一人当たり所得はアメリカ並みであり、沖縄や青森はイタリア、スペイン並みである。
  • 財政再建を旗印に公共事業が縮小されると地方と都市の所得格差は広がる傾向にある。一方、先端産業が立地している地域は所得水準が高い。