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佐々木信夫『都庁』岩波新書、1991年2月

都庁―もうひとつの政府 (岩波新書)

都庁―もうひとつの政府 (岩波新書)

■内容【個人的評価:★★★★−】
○第1章「都庁移転のドラマ」

  • 1957年2月に丹下健三の設計でつくられた有楽町都庁は、10年も経たないうちに手狭になってしまった。外観はともかく、内部は迷路のようである。天井は低く照明は暗い。廊下にまでロッカーがあふれ、室内は机とOA機器と衝立が迷路を形づくる。そうでなくとも「都政は分かりにくい」と言われるのに、この建物は一層その印象を強めるものであった。
  • 都庁舎の建て替えが正式に話題になり始めたのは、有楽町都庁の新築から14年目の1971年、それから今日の「決定」をみるまでに14年、「移転」までに6年と、じつに20年の年月を費やした。
  • 丸の内と新宿と、当初は丸の内地区での建て替え案が優勢であった。

○第2章「都知事」

  • 都知事には4つの顔がある。
    • (1)政治家の顔:公約の実現
    • (2)社長の顔:経営能力、やる気、目標、労働組合
    • (3)地方代表の顔:全国知事会
    • (4)外交官の顔:姉妹都市
  • 美濃部は参加都政を進めたが、鈴木は個人との直接対話は避け、利害集団との対話を中心に据えた。
  • 美濃部は福祉都政を看板にソフトを重視、鈴木は東京改造を看板にハードを重視した。
  • 美濃部は、公害・福祉・教育を政策の基本に据え、鈴木は財政再建がまず第一、その後に「マイタウン東京」づくりの都市改造を掲げた。
  • 美濃部は水道、バスなどの料金を抑制したが、鈴木は福祉の有料化を含め順次値上げした。
  • 美濃部は議会に相談する前にアドバルーンを掲げたが、鈴木は与党に事前に十分かつ周到な根回しを行ったうえで政策を打ち上げた。
  • 美濃部はマスコミを利用して世論形成を図ったが、鈴木は情報提供の窓口を一本化して都政情報のお知らせに徹した。
  • 美濃部は大衆参加の実現によるアマチュアリズム都政の実現を目指し、鈴木は専門家によるプロフェッショナル都政の実現を志向。
  • 評価としては、プラス面は美濃部は福祉や公害行政の先駆的取り組み、鈴木は国の法律の枠内での安全運転による財政再建、マイナス面は美濃部は放漫財政・人気取り、鈴木は開発志向の都民不在行政ということか。
  • 知事は、時期により以下のような性質がある。
    • (1)1945〜1950年代前半:官選知事の名残り、半数がそのままとどまった
    • (2)1950後半〜1960年代:地方の名望家、公共事業の分捕り合戦、中央直結のスローガン
    • (3)1970年代:成長のひずみ、学者・文化人知事、革新知事の躍進
    • (4)1980年代:低成長下、行政運営の手堅さが買われ、自治官僚が知事となる
    • (5)1990年代:地方の自立、活性化
  • 都庁は、幹部職員を含め国からの天下りを拒否してきており、都庁モンロー主義といわれる。
  • 都庁人事においては、人脈(職務閥)の影響はある。しかし学閥はない。人事大権を持つ副知事との人脈があれば、人事異動の際に何かと面倒をみてもらえる。

○第3章「都庁の経営」

  • 都庁の経営を見ていると、場あたり的な対応が多すぎる。長期戦略のない経営は都民の願う安定した都庁イメージからは遠い。少なくとも都庁を支える職員については、時々の知事の思惑や時流に流されるのではなく、中長期の経営設計のもとに安定的に確保されなければならない。

○第4章「都庁の人事」

  • 都庁の政策形成をみて、国の官僚だった女性委員は、その発想が地方の市町村レベルと変わらず、国の考え方の対極になっていないことにあきれている。
  • 局長のあいさつがそろいもそろって、「未知の分野であり、これから勉強を」などと言い、「これだけは実現させたい」ということを言う者はいない。また都政人相互に論争が展開されることがない。互いが馴れあっており、論争も斬新な政策も生まれない。
  • 都庁には毎年1200人が入ってくるが、そのうち課長になれる人はわずか5%である。
  • 職層を8階層にも分け、昇任満足を何回も味わわせ、人事上の不満をかわしている。
  • 都庁の組織は、行政サービスを中心に据えるより、職員の人事処遇を中心に据えている。
  • 一定の職務実績を踏まえ行う都庁の管理職選抜方法は優れているが、しかし、試験漬けになり教科書的な知識を詰め込むことに費やすのは適策といえるのか。

○第5章「都庁の政策形成」

  • ほぼ以下のような形態に分けられる。
    • (1)類型1(ボトムアップ):知事←庁議←副知事←事業局
    • (2)類型2(トップダウン):知事→企画審議室(特命)→事業局
    • (3)類型3(ブレーン諮問):知事→←懇談会(事務局)→事業局
  • 稟議の起案
    • (1)知事決裁:課長起案
    • (2)局長、部長決裁:係長以上
    • (3)課長決裁:係員

○第6章「都庁の予算編成」

  • 主査ヒアリングでは次のようなことが問われる。
    • (1)事業内容
    • (2)都がやるべきことかどうか
    • (3)他局、他事業との関連
    • (4)総合実施計画との関連
    • (5)職員定数との関連
    • (6)事務事業整理の可能性
    • (7)経費や歳入の見積もり
    • (8)国からの指示
    • (9)政党、団体等の動きや絡み
  • 知事判断にかかる予算の重要項目は都政予算の三割に及ぶ。知事査定は約300件、1件5分見当で査定される。
  • 予算が議決されると執行の準備が進められる。知事から「予算の執行について」(副知事名)という依命通達が各局に出される。これには予算執行の一般原則と歳入歳出の留意事項が列挙されている。この後、財務局長から「歳出予算の配布について」という通達が各局に出され、四半期ごとの執行計画がつくられ、予算の配布が行われる。
  • 新年度が始まるとともに主計部では決算見込みの作成が行われる。
  • 歳入は与件となっており、事実上課税を自ら決めることができない。

○第7章「都議会と選挙」

  • 4つの機能がある。
    • (1)批判機能:首長の独走の抑制
    • (2)教育機能:市民に争点を明らかにする
    • (3)政策機能:政策の提案、順位付け
    • (4)参加機能:市民参加の可能性を引き出す
  • ところが、実際の議会は首長与党化している。
  • 知事と議会との関係で最も重要な課題は、根回しによる政策決定から抜け出すことである。

○第10章「あすの都庁を考える」

  • 少なくとも先進国の中で、強い中央集権体制を続ける国は日本しか残っていない。一人当たりGNPが世界一になったにもかかわらず、個人や地域に豊かさの実感がないのは、権限と財源が身近な政府に存在し、市民が政治参加を行って地方自治を運営するという、デモクラシーの基本が欠けていることと大いに関係があるのではないだろうか。