神武庸四郎『経済史入門』有斐閣、2006年12月
経済史入門―システム論からのアプローチ (有斐閣コンパクト)
- 作者: 神武庸四郎
- 出版社/メーカー: 有斐閣
- 発売日: 2006/12
- メディア: 単行本
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○第1講「経済史の意味」
- ドイツ語では「歴史」には物語としての歴史(ヒストリー)と、時間や場所の定まった事実(ゲシヒテ)がある。大塚久雄は、ヒストリーを記述しながらゲシヒテもきちんととらえていた。
- 経済史学とは経済史を対象とした研究、もっと簡単にいうと経済史の理論のことを意味している。理論とはいっても二種類ある。一つは経済史学固有の理論であり、経済成長論や経済システム論などの経済理論、および官僚制論や疎外論などの社会学理論を拠り所にして組まれるものである。いまひとつは実証的理論であって、歴史(史実)による理論の妥当性を検証するためのものである。統計学の仮説検定の手法を応用した「計量経済史」あるいは「数量経済史」と呼ばれる理論もあるし、歴史学特有の理論としては史料批判学がある。
- 日本における経済史学の代表的な研究としては以下のものがあげられる。
- まともな人間社会では、社会的なルールを守り、お互いに相手のことを考えて自分の行動を律することができるように家庭や学校や地域の中で誰もが子供のうちから教育を受ける。イマジネーションを通じてお互いに相手のことを考えるというのが社会の理想的な姿であろう。アダム・スミスはこうした状況を「同感(sympathy)」といい、経済行為の社会的性格を考えるときの社会認識の前提としてとらえた。
- 家族の一人ひとりが経済的に行為することと、家計が全体として経済的に営まれることは両立するだろうか。ここには合成の誤謬(fallacy of composition)という重要なテーマが含まれている。代表的な事例としては、マンデヴィルが『蜂の寓話』で提示した命題「私悪は公益なり(private vices,public benefits)」がある。
- 経済システムをインプットとアウトプットの側面から総体的にとらえた優れた業績として、レオンチェフの産業連関表がある。
○第6講「資本主義」
○第7講「産業革命」
○第8講「経済学史の理論」
○第9講「社会主義」
○第10講「政治と経済」
○第11講「経済システムのゆくえ」
■読後感
異色の経済史入門書であり、歴史とは何かという定義と、それを出発点とする経済学者の取り組みにかかる視点が斬新である。ただし、自分の関心で筆を進めている点もあり、手を広げている割には届いている分析が妙に限定的であるという印象を受けた。
学説の紹介が中心であり、言葉を換えると枠組みへの視点が主である。より著者のいう「ゲシヒテとしての歴史」=実際にあった社会事象と経済理論との関連性を見ることの興味深さに言及できるとさらによいと思われた。