畑村陽太郎『失敗学のすすめ』講談社文庫、2005年4月
- 作者: 畑村洋太郎
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2000/11/20
- メディア: 単行本
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○第一章「失敗とは何か」
- 「失敗学」における基本的姿勢は、私たちの身近で繰り返される失敗を否定的にとらえるのではなく、むしろプラス面に着目してこれを有効利用しようとする点にあります。つまり、失敗の特性を理解し、不必要な失敗を繰り返さないとともに、失敗からその人を成長させる新たな知識を学ぼうというのが失敗学の趣旨なのです。
- 結論からいえば、最初のうちに、あえて挫折体験をさせ、それによって知識の必要性を体感・実感しながら学んでいる学生ほど、どんな場面にでも応用して使える真の知識が身に付くことを知りました。
- 失敗の原因を分類すると、次の10項目に大別することができます。
- 1.無知:失敗の予防策や解決法を学んでいない。
- 2.不注意:十分注意していれば問題ないのに注意していない。
- 3.手順の不順守:決められた約束事を守っていない。
- 4.誤判断:状況を正しくとらえていない。
- 5.調査・検討の不足:当然知っていなければならない知識や情報を持っていない
- 6.制約条件の変化:はじめに想定した条件とは異なってくる
- 7.企画不良:企画そのものが悪く実行者ががんばっても報われない
- 8.価値観不良:自分の組織の価値観が周りと異なる
- 9.組織運営不良:組織の運営を修正できない
- 10.未知:その現象と原因自体を知りえていない
- ものごとを樹木構造にして全体の連関性を把握することが重要である。
- 失敗情報は伝わりにくく、時間が経つと減衰する。
- 失敗情報の特性の一つに、失敗情報は単純化したがるという面があります。複数の原因があるのに、ある一つの原因ばかりが特筆される。
- また、失敗原因は変わりたがる。上の者は下の者の責任としたがる。
- ひとつの失敗から教訓を学び、これを未来の失敗防止に生かしたり創造の種にしたりするには、ひとつには失敗を事象から総括まで脈絡をつけて記述すること、もうひとつは失敗を知識化する作業が必要です。
- 失敗情報の記述:事象、経過、原因、対処、総括、知識化
- ひととおり、自分が関わる仕事の全体を体感することで、それぞれの仕事がどんな過程で進められるかといった構造的なものから、どんな知識が必要かといった問題まで理解が深まる。
- 正直に言えば、自分の創造したものが周りの批判にさらされるのは、あまり気持ちがいいものではありません。「何だと!」と思うこともしばしばですが、この試練を経験したものは、研ぎ澄まされた形で世に出せるという大きなメリットがあるので、外に出たときに真の強さを発揮するのです。
○第七章「致命的な失敗をなくす」
- マニュアルでは、こうやるべきだという管理者にとって理想的な方法が詳細に説明されています。ところが、実際は作業者の教育としてはこれでは不十分で、マニュアルから外れてしまったときに起こるべき問題を教え込まないことには、軽々にこれを試した結果の大失敗というものを誘発しかねません。
- ある企業では、失敗を起こした当事者が自分の失敗をA4の紙一枚程度にまとめてその情報が必要とおぼしき部署に向かって情報発信するシステムを実行しています。失敗はあって当然で、これと上手に付き合っていこうという、これまでにはなかった前向きの姿勢を取り入れているわけです。
「失敗したとき」を自分なりに考え直してみると、仕事の全体像を把握していなかったとき、または把握したつもりになっていたとき、である。全体像をつかんでいれば、どこが注意すべきポイントであるかは分かるし、現在の自分がプロセスのどの位置にいるかも分かる。したがって、仮に忙しくても余裕を持って対処する、あるいは対処してもらうことができる。
たとえば、現在の組織構造が担当者個人の手に、セグメント化された仕事が乗っている状況であるとすれば、これは失敗を招きやすい状態であるといえる。
現在、何かあったときに報告書をまとめているが、これは、その場限りの文書でありデータベースとして後で利用するものにはなっていない。こうした情報は、申請‐処分という行政作用とは別の扱いにすべきだ。企画業務などを従来的な文書と同じ扱いにするのはおかしい。
マニュアルについては、これがどこまで役に立つのかという点でつくった本人である自分でも分からないところがある。全体像を知っていてマニュアルを使うことはできるが、初任ですぐにできるかどうか。マニュアルは熟達すると使うことができる、というパラドックスがある。