藻谷浩介『デフレの正体ー経済は「人口の波」で動く』角川グループパブリッシング、2010年6月
デフレの正体 経済は「人口の波」で動く (角川oneテーマ21)
- 作者: 藻谷 浩介
- 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
- 発売日: 2010/06/10
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○第一講「思い込みの殻にヒビを入れよう」
- 総合指標や平均値に皆が右へならえする時代は終わったのです。
- 好景気なのに内需が拡大しない、とか不景気なのに史上最高益の企業がある、とか全体の傾向には矛盾することが実際の世の中ではいろいろ起きています。ところがそれを見ながらも、そういう変な個別の動きは例外にすぎないと決めつけて、自分の信じ込んでいる総論を守ってしまう。そういう人は、現実からのフィードバックを受け付けられない、学術用語で言えば演繹だけで帰納をできないわけです。
- お考えください。もっとも好景気の恩恵を受けていた名古屋都市圏の大企業城下町の、明治末年からある拠点駅の駅前に、ビジネスホテル一つ、マンション一つ、ファミレス一つ、コンビニ一つ建たない好景気とは、駅前の更地が90分無料の駐車場になったままの好景気とは、いったいどういう好景気なのか。
- 要するに好景気というだけでは、レッセフェールだけでは開発は起きなかったのです。
- それはなぜか。駅前の地権者の皆さんが豊かで、別段なにもする必要を感じなかったからです。土地建物に絶対の権利を有する地権者が土地を活用してもっと儲けるという合理的な行動を取らないものですから、いくらポテンシャルのある場所でも全く開発が起きません。キャスティングボードは景気という総論的な事態ではなく、地権者という個別の経済主体が握っているわけです。
- 小売販売額や課税対象所得額、あるいはこの先で使う国勢調査のような確固たる全数調査の数字は、現場で見える真実と必ず一致しますし、お互いの傾向に矛盾が出ません。一致しないのは、得たいの知れない世の空気だけです。
- つまり同じ面積の売り場を持つお店であれば、首都圏の方が青森県以上に売り上げが落ちているということです。
- 都心は首都圏平均よりもさらに厳しい状況なのです。
- 大阪の個人所得やモノ消費の動向は、じつはどの田舎の都道府県よりも苦しい推移をたどっているのです。
- そもそも沖縄県は、就業者数が、日本の都道府県で唯一順調に増加を続けてきた県なのです。だから個人所得が増え、モノが売れる。経済の当たり前の姿が沖縄だけにあるわけです。
- 確かに経済学は人口は増加なのに生産年齢人口は減少、という事態を想定していませんが、でもそれが首都圏の現実だったのです。
- ハイテク=高付加価値という思い込みがいかに強いことか。実際には、人間をたくさん雇って効率化の難しいサービスを提供しているサービス業が、売り上げの割に一番人件費がかかるので付加価値率が高いのです。エレクトロニクスや自動車は、大量に同じ商品をつくって売りさばこうというモデルから抜けられていないので、価格競争に陥ってしまってマージンが非常に薄い。
- ここにも明らかなように、いくら素晴らしい技術があっても、その価値を価格転嫁できない限り付加価値になりません。
- 日本の産業は、付加価値額をあげる方向に、人減らしではなく商品単価向上に向け努力すべきなのです。その結果として生産性が上がるのです。
- ・高齢富裕層から若者への所得移転
- ・女性の就労と経営参加を当たり前に
- ・労働者ではなく外国人観光客・短期定住客の受け入れを
この本のいいところは、とかくフローと数字を見て経済を論じる基調が多いところ、ストックと実際の社会を見てそれを行っているところだと思う。
マクロでもミクロでも経済分析は個別の数字や、数式化した行動をもとに行われる。このため、実際の土地利用などには話が及ばない。また、たかだか100年に満たない人生に、あたかも不老不死の「機械」にしか適用できないような「利潤最大化」などという原理を当てはめてみたりする。
自分も学生時代に都市を研究しようとしたのは、経済の現実としての経済活動や生活の場を見るべきだと考えたからだ。
ストック経済化といわれる昨今、この書の与える示唆は大きい。