永井荷風「帝国劇場のオペラ」(『日和下駄』講談社学芸文庫、1999年10月所収)

日和下駄 (講談社文芸文庫)

日和下駄 (講談社文芸文庫)

■内容
むかし西洋への遊学時親しんだオペラを、帝国劇場で座がかかるたびに訪れていたことを記したエッセイ

■読後感
冒頭、「哀愁の詩人ミュッセが小曲の中に、青春の希望元気とともに悄磨し尽した時この憂悶を慰撫するもの音楽と美姫との外はない。曾てわかき日に一たび聴いたことのある幽婉歌曲に重ねてなる耳を傾ける時ほどうれしいものはない」という言葉を引いている。
荷風は、毎晩オペラを帝国劇場に聴きに行っていた。それは青年当時ヨーロッパへの遊学した当時の記憶をよみがえらせるものであったようだ。
帝国劇場でのオペラは大正八年からかかっていたようだ。本国から亡命したロシア人たちの手によるものだった。しかし、ヨーロッパでは冬がシーズンとなるオペラが当時の日本では盛夏に開かれたようで、観客の日本人のいでたちを含め、荷風は大いに違和感を抱いていた。