幸田真音『舶来屋』新潮文庫、2012年2月

舶来屋 (新潮文庫)

舶来屋 (新潮文庫)

■内容
戦後の日本に、グッチ、エルメスなどのヨーロッパのブランドを持ち込み広めた商人の話。
現代日本のブランド・ブームの背景には、一人の先駆的商人の存在があった。その商人は、戦時中の兵士としての厳しい体験を経て、戦後に闇市の商人からはじめ、数多くの得難い出会いや修羅場を潜り抜けて銀座の並木通りに高級なブランド品を日本の総代理店として扱う店舗を構えるまでになった。

■読後感
ブランドというと、その存在は自然に浸透してきたようにも思われるが、浸透の背景には美の価値を理解できる一人の商人の力があった。

ただし、この話の中では、いかにもてはやされるブランドといえども、大量生産されるなかで、商品としての実質的な価値が下がってきているともとらえている。

本書では、若い恋人二人が、この80歳を超える商人の述懐を聞きながら、自らの生き方を照らし合わせ、質問を投げ掛けたり、そのバイタリティーに感心するというスタイルで描かれており、この叙述スタイルには、少し自分に合わないところもあったけれど、テーマの掘り下げかたは歴史ノンフィクション的なところもあり素直に面白いと思った。