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KAWADE夢ムック『武田百合子』河出書房新社、2004年2月

KAWADE夢ムック 文藝別冊 武田百合子

KAWADE夢ムック 文藝別冊 武田百合子

■内容
 この本は、平成5年に67歳で亡くなった、専業主婦でエッセイストの武田百合子さんを偲び、本人の単行本未収録エッセイや周囲を取り巻く人々の回顧録などを散りばめた作品です。

■読後感
 私は『遊覧日記』でまず百合子さん独特の視点・観察眼やその開けっぴろげでありながら精緻な表現スタイルに惹き込まれました。その後、夫武田泰淳や友人竹内好さんとのロシア旅行記『犬が星見た』なども楽しく繰り返して読んできました。
 このムックは、百合子さんに関する宝箱のようなものです。回顧録を通じてエッセイだけでは見えなかった、ご本人のさらに素の部分も見えてくるのですが、それはさておきご本人のエッセイで初めて読むものもあり、「ああ、百合子さんが戻ってきた」と実感させます。
 冒頭収録の「絵葉書のように」では、天衣無縫と称されながら、文章を作るにあたっての基本的な姿勢というか、決まりごとをご自身に課していたことが分かり、驚くとともに、あの文章はやはりそういった気配りのもとに作り上げられたものだったのだなと思わせました。
 そして次に収録された「あの頃」では、ごく親しい関係にあった竹内好さんの死ぬ間際の様子を、ご自身の感情を客観化して語っています。暗く、重い感情に押しつぶされそうになりながらも、客観化された実像を通じて描ける、というのは作者が持っている力としか言いようがありません。
 「暗いお湯が肋骨の裏を流れ、急に逆流して眼からふきこぼれた」という百合子さんの描写を通じて、自分自身も同じような感情をどこかで持ったことがあることを思い出しました。