齋藤孝(2007)『原稿用紙10枚を書く力』だいわ文庫

原稿用紙10枚を書く力 (だいわ文庫)

原稿用紙10枚を書く力 (だいわ文庫)

■内容【個人的評価:★★★★−】

◇本書の目的

  • 本書では、だれもが四百字詰め原稿用紙十枚程度の文章を書く力を身につけられる方法を、できるだけ実用的に示していく。(3ページ)
  • 本書は、だれでもが書くことによって、思考力が鍛えられ、自分なりの視点を持つことができるようになることを目指している。(51ページ)


◇全体像の構築がまず必要

  • 原稿用紙三〜五枚の文章はトレーニングをしなくても書くことができるが、十枚となると、書く前にメモやレジュメをつくり、文章の全体像を構築しなくてはならない。この技術はトレーニングをしなくては身につかない。逆にこの技術さえ身につければ、さらに長い文章を書くことも可能になる。(19ページ)
  • 私は一時間半程度の講演をすることが多い。講演しているときは、まさにパソコンで言葉を高速で打ち込んでいるようなイメージが頭の中に浮かんでいる。主語と述語が捩れないようにきちんと対応しているか、いま話していることが次の話にどういうふうにつながっていくか、というような、文章における構成−−章立てや節立てを意識しながら話している。(57ページ)
  • 全体を構築していく場合、キーワード、キーコンセプトを、タイトルになるようなキーフレーズに練り上げていくと、全体が構築しやすくなる。キーワードを練り上げて「何々は何々である」というキーフレーズにして、それを一行目に書いたとする。すると、そこに書き手の思いが凝縮される。キーフレーズは、多少わかりにくいものでもいい。自分にとっては、それを結論のつもりで書く。自分が一番言いたいことを一行目に書く。その後に続く文章は、それはどういうことかを説明することに費やす。(115ページ)


◇「引用」の効用

  • 「引用」は量を書くときには非常に役立つ。何かを引用して、それについてコメントするという尺取り虫方式で、私もよく安心感を持って書けた。(25ページ)
  • 人間の書いたものというのは、すべて変換したもの、つまり引用の織物でできていると考えてもいい。そもそも、言葉自体が自分でつくったものではない。素材からして自分オリジナルではないわけだ。すでに書かれているものを自分なりに変換、アレンジすることで、新たなものができる。これが書くという行為の「王道」なのだ。(32ページ)
  • 引用しながら、自分がその文章からどういう刺激を受けたかを書いていく。文字で書かれたものをそのまま引き写すのだから、生の素材をそのままの形で提示することができる。(86ページ)


◇書く内容に「気づき」=個性・独自性がないと面白くない

  • 書く側が「気づき」のおもしろさを感じないのに、読み手がおもしろさを感じるわけがない。まったく新しいものである必要はないが、文章の中に、読み手に何らかの「気づき」を与えるものがなくては、読む意味もない。(98ページ)

■読後感
書く力を養成するための一冊。筋立ての重要さ、引用の編み込みなどの技法について説明しつつ、最終的には読んでもらうための心臓部としての個性や独自性に踏み込んで説明している。そう、文章をどう書くか、は二番目のことであって、何を書くか(何を気づいたか)が一番重要なことであるという単純な真理である。
ただ、気づいただけではだめで、それをきちんと読み手に伝えるために技法がある。これは何度も繰り返し書くことで鍛錬していくことが必要なのだ。