小西聖子『ドメスティック・バイオレンス』白水社、2001年6月

ドメスティック・バイオレンス

ドメスティック・バイオレンス

■内容【個人的評価:★★★★−】

ドメスティック・バイオレンスへの介入の難しさ

  • ドメスティック・バイオレンスへの介入は援助する人にバーンアウト(燃えつき)が起こりやすい分野であるといえる。自分で役に立つ仕事ができるという有力感や達成感は、むずかしい仕事をする動機を維持するために大事であるが、やってもやっても徒労感が残ってしまったり、問題が複雑すぎて、自分では扱いきれないという気持ちが起こりやすくなる。(22ページ)
  • なぜドメスティック・バイオレンスがわかりにくいのか、援助がしにくいのか。もうひとつの問題点は、私たち自身のなかに、サポートを受けるべき人、被害を受けた人は善良で汚れがなく、無辜である、いわばイノセントでなければいけないというイメージがあるのだと思う。(28ページ)


スウェーデンのシェルターの取組

  • スウェーデンのシェルター)一九九七年の利用者が三十五名、平均滞在期間が四か月から六か月ということで、これは日本の平均からするとかなり長めである。たとえば東京の女性センターの滞在期限は二週間である。公立には二週間というところが多い。
  • 六か月くらいあれば、多少は落ちついて、自分の行く先を考えて、少しは職業的な訓練も受けられるかもしれない。二週間ではつぎに住むところを探すだけで精一杯であろうし、心の問題まではとても扱えないだろう。(58ページ)


◇二・七パーセントという「大きな」数字−DV被害者の割合−

  • 命の危険を感じるぐらいの暴力を受けたことが、「何度もあった」と答えた人が○・六パーセント、「一・二度あった」という人が二・一パーセント、両方足して二・七パーセント。総数が一一千七百九十七人だから、かなりの人が「はい」と答えたことになる。この二・七パーセントは「たいへん多い」数である。もし日本人の成人女性の二・七パーセントがかかったことのある病気、そのうちの○・六パーセントがなんども命の危険を感じるような病気で、子どもにも深刻な影響を残すものが新しく発見されたら、国民の健康上の大問題になるだろう(87ページ)


◇なぜ支配されてしまうのか

  • 自分の生存も危ぶまれ、暴力が常態化している場所で、たとえば気まぐれに殴られない日があったとする。本当は人にゆえなく殴られないことは、人の基本的な権利であって恩恵でもなんでもない。けれども、いつ殴られるかわからないというときに、きょう一日は殴られない日であるとか、あるいは、やさしい言葉をかけてもらえるとか、そういう恩恵が気まぐれにあるということは、監禁されている者に感謝の感情をもたらす。これがコントロールを強化する。(108ページ)
  • ドメスティック・バイオレンスはくり返しふるわれる。しかも、ただやみくもにふるわれるのではなく、心理的な脅しといっしょになっている。(122ページ)


◇被害者は自分にとどまらない

  • ドメスティック・バイオレンスの被害者は子どもを虐待することもあるということだろう。被害を受けた人が、自分自身の傷つきをつぎには子どもに転化してしまうこともあるのである。(132ページ)


◇DV被害者の心理的ダメージ

  • 児童虐待ドメスティック・バイオレンスの被害のあとにも、PTSDが発症することがある。ただし長期にわたってくり返し被害が起こっている場合には、ふつうのPTSDの症状に加えて、慢性的な抑うつ症状、慢性的な解離症状、疼痛を含む多彩な身体症状、対人関係の不調、自殺念慮や自殺企画、不安定な感情、物質乱用などが症状としてあげられる。自己評価は極端に低下する。(146ページ)


◇欧米の研究と我が国の実態

  • ドメスティック・バイオレンスに関する古典的著作のひとつであるレノア・ウォーカーの「バタードウーマン−虐待きれる妻たち」(金剛出版)では、ドメスティックバイオレンスにおいては暴力がサイクルになっていることが強調される。パートナー間に緊張がたかまり、暴力がふるわれる時期があり、さらにその後に加害者が許しを乞い、やさしさを示す時期があること、それらがあるために被害者は、やさしい時期が「ほんとうの」パートナーだと思い、逃げることを考えなくなることなども書かれている。
  • このようなタイプのドメスティック・バイオレンスがあることもたしかなのだが、近年ではドメスティック・バイオレンスの加害者には、さまざまなタイプがあると考えるのがふつうである。どちらかといえば、はっきりしたサイクルはみられないケースのほうを、多く経験する。(156〜157ページ)


◇加害者のタイプ

  • すべての加害者をきれいに分類することはむずかしいようである。以下に四つの要素をあげてみよう。これはけっして分類ではなく、このような要素がドメスティック・バイオレンスにつながるというように理解したい。それぞれが重なっている部分がある。
    • 1共感性の欠如
    • 2情緒の不安定
    • 3激しく不安定な対人関係と、見捨てられないための常軌を超えたふるまい
    • 4男らしさ
  • (158〜162ページ)


◇被害者に対する心理カウンセリングの留意点

  • 安全が確保された被害者への心理カウンセリングで大切なことは、つぎの点である。
    • 1自責感の軽減
    • 2喪失への対処
  • (204〜205ページ)

■読後感
ドメスティック・バイオレンスについて臨床心理士の視点から捉えた先駆的な著作である。
欧米の研究成果や被害者保護の取組などをふまえ、日本における対応のあり方について詳細に説明している。