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鈴木隆文、麻鳥澄江『ドメスティック・バイオレンス:援助とは何か援助者はどう考え行動すべきか』教育史料出版会、2003年9月

ドメスティック・バイオレンス―援助とは何か 援助者はどう考え行動すべきか

ドメスティック・バイオレンス―援助とは何か 援助者はどう考え行動すべきか

■内容【個人的評価:★★★★−】

◇援助は「してあげる」ものではない

  • 被害にあった人に正すべき問題があるわけではないから、その人に対応する時に捨てる感覚は、「救済する」「援助してあげる」「助けてやる」「代弁する」などである。
  • してあげる感覚は、問題の本質を見ないだけでなく本人の力を奪うことにもなる。してあげる感覚から自分自身が心身ともに脱却する努力が必要とされる。むしろ必要なことは、「当事者はその人なりの智恵を使って生き延びてきたことに敬意を払い、当事者の発言を援助するということになる。(50ページ)


守秘義務は第一に考えるべき

  • 守秘義務といえども絶対ではない。例えば利用者本人や他人の生命への危険がある場合などこれを上回る利益がある場合には破らねばならないこともある。しかしその場合はごく限られるはずであるし、そのような場合もできることなら利用者の了解を取り付けるよう、援助者としては粘り強く利用者と話し合う必要がある。(67ページ)


◇「女性」センター→「男女共同参画」センター?

  • 女性の権利推進のための女性会館や女性センターも、最近では男女平等、男女共同参画センター・・・などと改名され、そこでの企画に男性が講師や参加者として加わる機会が増え、女性のつながりあえる場を奪っている。やっとできたばかりの公設の女性の場(男性による中断のない場)が削られようとしている。(104ページ)


◇暴力の連鎖という誤った通説

  • 子どもを虐待する親自身が、その子ども時代にその親から虐待された人が多いといわれている。しかし実際には、子ども時代に虐待を受けた人のうち大多数は自分の子どもを虐待しない。子ども時代に虐待を受けた人々の大半は自分の子どもを虐待しないという事実を理解するのは、本人および周囲の人々にとって重要である。(173ページ)


◇加害者治療は困難

  • イギリス内務省は妻や子どもを虐待する男性はあらゆる犯罪者の中でも治療による改善がもっとも困難であるとの調査結果を発表し、加害者プログラムに通う男性たちはよりずる賢く暴力を偽装する術を身に付けるようになるのが実情であるとコメントしている。この調査結果を受けてイギリスは虐待加害者の更生プログラムの予算を削減しつつある。そしてそのお金は被害者用シェルター、各種の禁止令の施行、加害者を被害者に近づけないための電子タグ装着システムにまわされる予定である(187ページ)


◇当事者の気持ちは揺れ動いて当然

  • 当事者の気持ちが揺れ動くのは当然のことであり、援助者はそれを動揺せずに受けとめられるとよい。例えば援助者側から見た安全や常識を基準に被害にあっている人が「逃げない」ことを非難するのではなく、当事者の都合を読みとる余裕を持つことである。(223ページ)


◇安全安心とは

  • 安全とは身体などに危険を受けるおそれが低い状態のことであり、本人にとっての外部の状況である。これに対して安心とは心配がなく気持が落ち着くことである。人間にとっては安全と安心の両方が必要である。(228ページ)


◇本人の決定の尊重

  • 小さなことでも当事者が決めることが力を取り戻す第一歩になる。一緒に話す時の飲み物、座る位置など、簡単なことでも本人が選べるようにする。また、被害直後の混乱している状況では、大きなことを決める力が低下していたり、子ども問lこ被害にあってきた人は、他人から細かなことまで指示されてきたことが多いので、簡単なことから本人で決めていくようにして、この先の人生を自分で決める流れをつくることが大切である。
  • 周りの人は本人から頼まれたことだけをする。どれだけ本人と親しい関係にあっても当事者のことを「友だちの私」が決めてはいけないし、良かれと思って先回りしなくてもよいのである。「してほしい」か、「今はしてほしくない」かを、そのたびに本人にたずねる。(271ページ)
  • 家を出た後で、もう一度、元の家に戻る人もいる。選択肢が限られた中では、戻るしかない事情があり、本人が決断した以上、その意思を尊重することが必要である。この選択は当事者にとっては必要な過程かもしれないし、戻ることが新たなカをつける機会になることもある。ただしこの場合、戻ることは暴力の再発の危険があるので、援助者は戻った場合の危険について情報提供をして、安全確保の方法などを一緒に考えると現実的な選択がしやすい。また、戻った後に暴力が再発した時やしそうな時に、本人から連絡できる方法の具体的な提案など、援助を求めやすくしておく工夫も必要である。(285ページ)


◇「暴力から逃げる」ことは本来理不尽である

  • 援助者は究極的には、女性が暴力から逃げる必要がない社会を建設することを目指すべきである。今の社会では女性の方が暴力から逃げ、家を去ったりしなければいけないという理不尽さがある。今回のDV法は従来の男性が家を支配するという固定観念の一角を崩すものとして加害者に対する退去命令を不充分ではあるものの創設した。しかし、このような動きはほんの一歩にすぎず、女性が男性に依存させられずに、ひとり分を生きていくことが保障されない社会では女性への暴力はなくならない。(274ページ)

■読後感
フェミニズムの考え方に立脚した援助方法論。とっつきにくいが実は非常に豊かな内容を持っている。とくに自己決定の尊重など基本的なスタンスを学ぶのに好適。