盛山和夫『社会保障が経済を強くする:少子高齢社会の成長戦略』光文社新書、2015年2月

■内容【個人的評価:★★★−−】

社会保障費に関する迷信を排除するために

  • 実際、私たちが医療機関にかかって支払う医療費と、政府や保険組合が税金や保険料から医療機関に支払う医療費とは、ともにGDPにおける「民間最終消費支出」もしくは「政府最終消費支出」を構成する要素になっているのです。(49ページ)
  • 生活保護制度というのは、基本的にこのような役割を担っているものだと考えることができます。もちろん、細かなところでは「給付額が大きすぎるのではないか」とか「本当は働くことができるのに、偽って受給しているのではないか」といった問題はないわけではないでしょう。しかし、今の考察で重要なことは、そうしたセーフティネットが用意されているということそのものが、はたして経済にとってプラスかマイナスか、ということです。そして、答えは明らかに「適切なセーフティネットは経済にとってプラスだ」といえるでしょう。(62ページ)


◇持続的な成長のために政府主導の社会保障充実を

  • 持続的な成長のためには、国民レベルにおける生活文化の革新を視野に入れて考えなければなりません。つまり、「どのような新しい生活文化の発展を通じて、経済を牽引していくか」という見通しを持ち、それを踏まえた諸政策を考案することです。生活革新を伴う成長のある部分は、民間経済の自発的で自生的な動きの中からも生まれてきます。現に、IT関連技術の発展に伴って大きな生活文化の変化が起こり、それがまた新しい商品やサービスの開発を導くといった、成長のスパイラルが認められるといえるでしょう。(136ページ)


◇人口減少こそは成長におけるマイナス要素

  • 人口減少が成長にとってマイナスなのは、疑う余地がありません。人口減少は、生産の面でも消費の面でも、経済規模の縮小を招く大きな要因です。したがって、少子高齢社会における成長戦略という課題にとって、まず第一に考えなければならないことは、少子化という趨勢を食い止め、出生数の増大へと導くということであるはずです。(143ページ)


財政再建には増税は不可避であり、増税による問題も生じない

  • 財政再建をめざすという目標にとっても増税は避けられない選択肢なのです。しかも、何度も強調しているように、消費税率のアップによる増税と(いわゆる)国民負担率の増加は、(むろん、一定の範囲内という限定はありますが)経済にとってなんら問題を引き起こすものではありません。増税を避けるべき理由は何もないのです。(242ページ)

■読後感
腑に落ちる部分も多くありました。経済活動は当然のことながら社会保障を含み、社会保障は税金を使う一方で経済循環系の当然一部を担っているというところです。しかしながら、一方では、やはり経済はバランスこそが重要なので、どのレベルまで投入すべきなのかという議論が足りないような気がしました。また、将来負担についても少し軽視し過ぎているような感覚がありました。