山口仲美『大学教授がガンになってわかったこと』幻冬舎新書、2014年3月

大学教授がガンになってわかったこと (幻冬舎新書)

大学教授がガンになってわかったこと (幻冬舎新書)

■内容【個人的評価:★★★−−】

◇いろいろな情報があっても最終的には自分で病院を選ぶこと

  • 職場の同僚へのSOS発信の結果、あるいは口コミ情報収集の結果、あるいは、ネット相談の結果、こんなふうに複数の病院の可能性を示唆されることがあるでしょう。どれにするのかあなたもきっと悩みます。でも、最終的には自分で決断する以外にないのです。自分で選んだものは、たとえ結果がまずくても、覚悟ができています。自分で病院を決定すること。これが、患者の大事な心得です。(34ページ)


◇個室の良さを知って欲しい

  • 個室のよさを改めて認識させられました。私は、個室なんて賛沢で、ミエとお金のある人が占拠する部屋、だと思っていましたが、出費の多さに代えられないメリットがあることに気づいたというわけです。嵩んだ出費は、ストレスがない分、術後の回復が早まって早期退院ができるという福音で、見事に補てんできます。(70ページ)


◇手術を受けるか受けないか?−価値観に沿って決める

  • 手術を受けるか?受けないか?ガン患者の直面する大きな問題の一つ。私のように、迷いに迷って「手術する」という選択肢を選ぶ人間もいる。どんな決断にせよ、自分の価値観・人生観にきちんと沿った形のものが一番納得ができます。(114ページ)


◇術後はすぐに体を動かすこと

  • 術後すぐに体を動かすこと!傷も早く治るし、体全体の回復力が高まります。最初、つらくても、どうか歩いてください。これは、絶対にあなたに伝えたい事柄です。(139ページ)


◇あなたの話を聞いてくれる主治医を探すこと

  • お世話になった主治医のもとを去るのは勇気がいる。でも、しっかりと時聞をさいてあなたが納得できる別の医者を探しましょう!ガンという病気は一回きりで終わる人は少なく、多くの人は再発したり、転移したりします。親身になって相談に乗ってくれる先生を本気で探さなくてはなりません。あなたに頑張る気を持たせ、的確な指針を示してくれる医者を探しましょう。(179ページ)


◇ガン発症の仕組みをまず知ろう

  • 考えてみると、私はガンがなぜ発症するのか、どういう病気なのかをよく分かっているわけではなかった。相手をよく知らなければ、打つ手がないではないか。そもそも、ガンはなぜ発症するのか?ガンの発生メカニズムを探ってゆくと、壮大な生き物誕生の歴史まで感じさせられ、私はなんだか楽しくなってしまった。たった一個の細胞が六〇兆個という、気の遠くなるような数の細胞を分裂によってつくり出して、人間という生命体をつくる。あなたの体も、私の体も六〇兆個の細胞からできているんですね。この六〇兆個の細胞のうちの一%は、毎日新陳代謝で入れ替わっている。古い細胞が死に、新しい細胞に入れ替わり、生命を維持しているわけです。一%に当たる六〇〇〇億個の細胞が入れ替わる時に、正常細胞の形tは違った異型細胞が生まれてしまう。この異型細胞が、ガン細胞です。大量につくる工業生産品に必ず出てしまう規格外のロス商品に、ガン細胞は似ています。一日に3000個から5000個くらいのロスになるガン細胞が生まれてしまう。
  • 健康な人なら、生まれてきたガン細胞をリンパ球の働き(免疫力)で除去して、事なきを得る。でも、免疫力が弱まっていたら?ガン細胞を除去し損ねてしまい、ガン細胞が勢いづいてせっせと分裂増殖を繰り返して、「しこり」をつくってしまう。固形ガンの誕生です。この「しこり」が見つかって、私たちは「ガンができた」と言って慌てるわけです。私にできた大腸ガン、陣臓、ガンは、いずれも固形ガンです。そのほか、肺ガン、乳ガン、胃ガン、肝臓ガン、子宮ガンなど、臓器に塊となって発症するガンが固形ガンです。白血病悪性リンパ腫のように「しこり」をつくらないガンもありますが、発症してくるメカニズムは同じ。だから、ガンは、免疫力の低下によって、規格外の異型細胞の増殖を許してしまったことによる病気です(233ページ)


◇現時点で自分のできること

  • さてさて、現時点で私ができることは何か? 1.まず、抗ガン剤治療で、手術で取り残したガン細胞を除去しておくこと。2.自分の免疫力を高める努力をすること。ガン細胞やガン幹細胞をやっつけるリンパ球が気持ちよく働いてくれる体内環境をつくってあげることだ。年をとると、リンパ球も衰え、その攻撃力が減じているので、運動などで体温を上げ、体質改善を図ることである。そして、3.ガン幹細胞の力を奪ってくれるかもしれない治療薬が登場したら、それを試してみることも視野に入れておこう。もし、新たな薬剤が副作用のきわめて少ないものだったら、私たちはあまり苦しまなくてすむかもしれない。(236ページ)


◇ガンを患っても前向きに生きる

  • 人の余命なんて、実は誰にも分からない。医者が言う余命は、あくまで確率の問題。術後、どんな生活をしたかによって、余命は変わる。江戸時代の貝原益軒も『養生訓』で述べているではありませんか。「病をうれひて益なし。ただ、慎むに益あり(病気をくよくよ悩んでも無駄なことだ。それよりも、養生し治すためにエネルギーを注ぎなさい)。」その通りです。私もいつまでも膵臓ガンの再発を気に病んだりしないで、養生することに専念し、人生を楽しもう。そう決意すると、とても明るくなりました。(243ページ)

■読後感
ガンになると誰でも驚きますし、急に自分の生命の終わりを告げられたかのような気持ちになることと思います。著者の山口さんは、著書の中でそうした暗い気持には触れずに、直面して驚いたこと、ありがたかったこと、困ったことを具体的に叙述しています。まさに自分の身に降りかかってきたときにもそのまま応用可能な形で本を書き起こしています。とても参考になる本だと思われます。