上野千鶴子『男おひとりさま道』法研、2009年11月

男おひとりさま道

男おひとりさま道

■内容【個人的評価:★★★−−】

◇男性の描く理想の生活−おひとりさまの先駆者たち−

  • そういえば、男おひとりさまの決定版はソローの「森の生活』だ。日本版は鴨長明の『方丈記』。どちらもファンは、ほとんどが男性だと思う。ちょっと気のきいた男に話をふってみると、急に目をうるませて、「ソローの森の生活。いいなあ、あこがれだなあ」と言うのを目にすることがある。自然のなかの小さくて質素な家で、だれにも邪魔されずに自給自足の暮らしを送りたい、という実現する可能性のない夢をもっている男性が多いことにおどろく。近代になってから自己流謫(罪によって遠方に流されること)同然の方丈暮らしに新たな神話をつけくわえたのは、幕末の探検家、松浦武四郎(1818〜1888年)。伊能忠敬(1745〜1818年)は有名だが、松浦のほうはコアなファン以外には知られていない。蝦夷地の探検家で「北海道人」と号した。「北海道」という地名はここから来ている。晩年は踏査した各地から集めた木材を寄せて畳一畳の小さな寓居を建て、そこに自分を幽閉するようにして生涯を閉じた。蝦夷地が明治政府の侵略の対象になっていくことに憮然たる思いをもっていたために、一種の自己処罰のような暮らしを選んだのだという説もあるが、はっきりしない。死後は寄せ木細工の寓居を燃やしてくれるように遺族に言い残したが、遺族は遺言に背いてその建物を保存した。現在では三鷹市国際基督教大学の構内に移築・保存されている。松浦武四郎を知っていれば、「おひとり力」検定の一級くらいにはなる。さて、あなたは?(119〜120ページ)


◇家族と一緒にいると施設に放り出される?介護保険は一人だからこそ有効に利用できる

  • 介護保険はもともと在宅支援が目的。それが施設志向になってしまったのは、なんといっても「利用者」が家族だからだ。家族のつごうを考えれば、テマのかかる年寄りには家から出ていってもらいたいと思うのは人情。同居を開始したばっかりに、家族によって施設入居を決められてしまうことになる。同居しているからこそ、出ていってもらいたいということになれば、本末転倒ではないか。それなら最初から同居を選ばなければよかったのに、と言いたくなる。だからこそ、「一緒に住まない?」という子どもからの申し出を、わたしは「悪魔のささやき」と呼んでいるのだ。ここ数年、介護保険の在宅支援サービス利用量が徐々に増える傾向にある。その理由は、夫婦世帯と単身世帯が増えたせいだ。こうした介護保険の利用動向をみても、在宅支援を受けたくない(つまり他人に家に入ってきてもらいたくない、したがって年寄りのほうに家から出て行ってもらいたい)のは家族のほう。それさえなければ、高齢者は他人に家に入ってきてもらうことをためらわない。家族がいなければ、いや、もっとはっきり言おう、子どもさえいなければ、在宅でヘルパーさんに来てもらう敷居は高くない。(157〜158ページ)


◇友人に求めるべきこと、求めるべきではないこと

  • 新しい関係は、新しい自分をつけくわえてくれるだけ。新しい友人に、かつての友人と交わした経験と同じことを期待しても無理だし、同じ理解を求めてもムダだ。家族や友人の死とともに、あちらの世界へ持ち去られた記憶については、沈黙するしかない。せめて共通の友人たちと思い出話をするのが慰めになるくらいだ。それならやはり、友人は多いほどいい。そのユル友には、内面の葛藤や墓場にもって行くような告白などしなくてよい。しょっちゅう食事やお酒をともにする友人には、思想信条についての議論はふっかけないほうがいいし、まったり時間を過ごしたい相手に知的刺激を求めるのは、おかどちがい。なにごとにも薀蓄派はたまにはいいが、疲れるから会うのはほどほどにしておこう。弱音を吐ける相手とは、たまに会うくらいがちょうどいい。ついついグチを誘発されてしまうので、あとで自分はなんてグチっぽい人間なのだろうかと落ちこむこともある。(180ページ)


◇退職後の付き合いで守るべきこと

  • 選択縁づきあい「男の七戒」
    • その1 自分と相手の前歴は言わない、聞かない
    • その2 家族のことは言わない、聞かない
    • その3 自分と相手の学歴を言わない、聞かない
    • その4 おカネの貸し借リはしない
    • その5 お互いに「先生」や「役職名」で呼び合わない
    • その6 上から目線でものを言わない、その場を仕切ろうとしない
    • その7 特技やノウハウは相手から要求、があったどきにだけ発揮する (190ページ)


◇男性の一人暮らしで必要な条件

  • 男おひとりさま道10カ条
    • 第1条 衣食住の白立は基本のキ
    • 第2条 体調管理は自分の責任
    • 第3条 酒、ギャンブル、薬物などにはまらない
    • 第4条 過去の栄光を誇らない
    • 第5条 ひどの話をよく聞く
    • 第6条 つきあいは利害損得を離れる
    • 第7条 女性の友人には下旬をもたない
    • 第8条 世代のちがう友人を求める
    • 第9条 資産と収入の管理は確実に
    • 第10条 まさかのときのセーフティネットを用意する (227ページ)


◇家で最期を迎えることはできるのか

  • 在宅ひとり死は可能か?イエス、というのが、答えである。そのための条件は以下の3点セット。
  • つまり、介護・看護・医療の3点セットと多職種連携がありさえすれば、おひとりさまの在宅死は可能である。(240ページ)


◇家で迎える最期−在宅ターミナルケアの利用−

  • 在宅ターミナルケアは、
    • 第1に、本人の満足度が高い。
    • 第2に、施設介護にくらべてインフラ投資がいらないぶんだけコストが安い。
    • 第3に、終末期医療のコスト抑制につながる。
    • 第4に、終末期に高齢者がためこんだ貯蓄を放出してもらうと、地域の雇用の活性化や需要創出につながる。
  • よいことだらけなのである。(263ページ)

■読後感
テーマとしては家族のある人、ない人に関わらず誰でも考えることです。これについて、具体的にどう心がけ、どう最期を迎えていけばよいのかを描いています。今後もこうしたテーマでさまざまな著作が出てくるのではないでしょうか。