鹿嶋敬『男女共同参画の時代』岩波新書、2003年12月

男女共同参画の時代 (岩波新書 新赤版 (867))

男女共同参画の時代 (岩波新書 新赤版 (867))

■内容【個人的評価:★−−−−】

男女共同参画社会基本法の実効性

  • 基本法には実効性を担保する仕掛けが施されていることも確かである。それは大きく言って二つある。一つは同法が、各府省の縦割り行政を排除するシステムに乗った法律だということ。二〇〇一年一月六日から実施された省庁再編によって、各府省横断的な総合調整機能を担う四つの合議体が内閣府に置かれることになった。経済財政諮問会議総合科学技術会議、中央防災会議、そして男女共同参画会議である。男女共同参画会議の役割は、男女共同参画社会基本法の第三章に規定している。男女共同参画社会の形成の促進に関する基本的な方針や、重要事項を調査審議する権限、施策を監視する権限など、総合調整・監視機能を有し、必要とあれば内閣総理大臣や関係各大臣に意見を言うことができる。その意味では基本法は、単に理念だけの法律というわけではない。二つ目は基本法第九条に基づき、地方自治体が「区域の特性」に応じた男女共同参画関連施策を実施する責務を有していること。男女共同参画社会作りを推進するため、条例を制定する自治体も相次いでいる。基本法の理念が条例という形で消化され、地方に根付きだしたのだ。条例の制定などをめぐって一部の地域にパックラッシュ(揺り戻し)が起きているのも、もはや理念を説く段階から実行の段階へと、一歩、歩が進められたからにほかならない。男女共同参画社会の形成は、セカンドステージに入ったのである。(16〜17ページ)


男女共同参画社会基本法に定める重点目標

  • 男女共同参画社会基本法は、五つの基本理念(第三条から第七条)などを勘案した「基本的な計画」の策定(第十三条)を国に義務付けている。それに基づいて二〇〇〇年一二月に施行された初の法定計画、「男女共同参画基本計画」は、男女共同参画社会を形成するに当たっての具体的施策として、一一の重点目標を挙げている。
    • 1政策・方針決定過程への女性の参画の拡大
    • 2男女共同参画の視点に立った社会制度・慣行の見直し、意識の改革
    • 3雇用等の分野における男女の均等な機会と待遇の確保
    • 4農山漁村における男女共同参画の確立
    • 5男女の職業生活と家庭・地域生活の両立の支援
    • 6高齢者等が安心して暮らせる条件の整備
    • 7女性に対するあらゆる暴力の根絶
    • 8生涯を通じた女性の健康支援
    • 9メディアにおける女性の人権の尊重
    • 10男女共同参画を推進し多様な選択を可能にする教育・学習の充実
    • 11地球社会の「平等・開発・平和」への貢献
  • これら一一項目は「二十一世紀の我が国社会を決定する最重要課題」として、それぞれが「施策の基本的方向」と「具体的施策」の二つに書き分けられている。前者は二〇一〇年までを見通した長期的な方向性を描いたもの、後者は二〇〇〇年度末から二〇〇五年度末までに実施する具体的施策を列挙したものである。(19〜20ページ)


基本法の基本理念

  • 基本法の三条から七条までの「基本理念」のうち、エッセンスと思われる部分のあらましを紹介する。「第三条男女共同参画社会の形成は、男女の個人としての尊厳が重んぜられること、男女が性別による差別的取扱いを受けないこと、男女が個人として能力を発揮する機会が確保されることその他の男女の人権が尊重されることを旨として、行われなければならない」
  • 「人権が尊重される」の上にご丁寧に「男女の」と付いているのは、性別に起因する人権侵害を排除するという意味が込められている。第三条が規定する「男女の人権」は大きく三つに分かれ、一つが「男女の個人としての尊厳」の重視、すなわち夫婦問暴力(ドメスティック・バイオレンス、略称DV)やセクシユアル・ハラスメント、ストーカー行為等、性に起因する暴力を受けない、その被害者にならないことを強調している。
  • 二番目が性差別の禁止(「男女が性別による差別的取扱いを受けない」)。この中には意図的な差別(直接差別)だけではなく、差別の意図がなくても結果的に差別が生まれるような状態、すなわち間接差別の禁止も読み込まれている。男女共同参画社会基本法に何を盛り込むかを議論した男女共同参画審議会でも、ズパリ、間接差別の禁止を基本理念に盛り込んではどうか、という意見もあったが、「明確な規定がない」という声を前に実現しなかった。だが条文の解釈をめぐる国会の議論の中では、政府委員らが明確に、三条には間接差別の禁止が含まれている旨の答弁をしている。
  • 三番目の「男女が個人として能力を発揮する機会」とは、「性」を理由に自己実現が阻害されることがないようにすることである。進学、就職が、例えば「女性は家庭を守る性」などの伝統的な性別役割分業観の下、女性は希望するところに進むことができないなどの状況を排除する規定である。(23〜24ページ)


男女共同参画社会基本法は家族を崩壊させるのか

  • 2の家族否定につながるという声、3のみんな外に出てしまったら子育てはどうするといった疑問にも、考察を加えておこう。男女共同参画社会の形成が、家族解体につながるのではないかという疑問は、二〇〇二年七月の衆院決算行政監視委員会でも民主党議員から出された。それに対する福田官房長官の答弁は、要約すれば次のようになる。「日本にも日本古来の伝統がある。その伝統にのっとった家族、家庭も存在しているわけで、守るべきものは守るということでもある。しかし少子高齢化や国際化など、いろいろなライフスタイルも存在してきている。そういう個々の生き方を否定するものであってもいけない。むしろ新しい生き方を積極的に認めることも大事で、それは社会をより活性化することにもなる」このような疑問が出るのは、男女共同参画社会基本法が個人の自立、個人の尊厳にポイントを置く法律だからかもしれない。初めに個人の尊重ありき、その上で家族、社会が形成されるというのが基本的な考え方である。家族を否定する理屈は、どこを探しても見当たらない。(53〜54ページ)

■読後感
男女共同参画社会基本法については、例えばDV防止法など関連する諸法制を理解するためにも重要である。一方では、規定そのものは包括的であり茫漠としたもので、ここを出発点としていろいろ考えていきましょうという性質のものではある。