レノア・E・ウォーカー『バタードウーマン:虐待される妻たち』金剛出版、1997年1月

バタードウーマン―虐待される妻たち

バタードウーマン―虐待される妻たち

■内容【個人的評価:★★★−−】

◇「バタードウーマン」の定義

  • 「バタードウーマン」とは、男性によって、男の要求に強制的に従うように、当人の人権を考慮することなく、繰り返し、肉体的・精神的な力を行使された女性を指す。バタードウーマンの対象になるのは、婚姻しているかどうかに関係なく、男性と親密な関係にあるすべての妻と独身女性で、カップルは少なくとも二回以上虐待のサイクルを経験していなければならない。つまりどんな女性でも一生に一度は男性と虐待的な関係になる可能性があるが、二度目に起こっても女性が同じ状態にいる場合に彼女を「バタードウーマン」と呼ぶのだ。(9ページ)


◇バタードウーマンに見られた共通の性格

  • この研究で、バタードウーマンに見られた共通の性格は次のようなものである。
    • 一 自己評価が低い。
    • 二 虐待関係の神話を全部信じている。
    • 三 伝統的な家庭主義者で、家族の絆を重要視し、女性の性的役割について固定観念を持っている。
    • 四 虐待者の行為について責任をとる。
    • 五 罪悪感に悩んでいるが、彼女自身が恐怖と怒りを感じていることを否定する。
    • 六 社会に対しては受け身であるが、それ以上の暴力を受けたり殺されたりしないように環境を操作する強さを持っている。
    • 七 重度の精神的重圧反応があり、心理生理学的な苦情を訴える。
    • 八 セックスに基づいた親密な関係を作り上げる。
    • 九 自分以外に自分の苦境を解決できる者はいないと信じている。 (42〜43ページ)


◇虐待者に見られた共通の性質

  • この研究の女性たちの報告では、虐待者は次のような共通の性質を持っている。
    • 一 自己評価が低い。
    • 二 虐待関係について、すべての神話を信じている。
    • 三 男性至上主義者で、家庭における男性の性的役割を信じている。
    • 四 自分の行動を他の人のせいにする。
    • 五 病的なほど嫉妬深い。
    • 六 二重人格を呈する。
    • 七 重度のストレス反応をし、このため酒を飲んだり、妻を虐待する。
    • 八 男らしきを回復するために、セックスを支配的行動として利用することが多い。両性愛者でもありうる。
    • 九 自分の暴力行為が悪い結果を生むとは信じていない。 (46ページ)


◇バタードウーマンには虐待の場から逃れることがまず必要

  • 動物の研究では、犬はショックを与えられた場から何度も引きずり出され、それを避ける方法を教えられてようやく受け身的行動から立ち直った。バタードウーマンが自分から逃げ出さない理由を犬の行動から理解したように、女性の被虐待行動を阻止する方法も見つけられないだろうか。最初にすることは、バタードウーマンまたは虐待者に、虐待関係から離れるように説得することだろう。この「引きずりだし」には、犬が研究者の助けを必要としたように、外部の助けが必要である。バタードウーマンをかくまってくれる「セイフハウス」があれば非常に役立つ。第二にバタードウーマンは、否定的な認識をしないようにするために、失敗を予想する習慣をなくすことを学ばなくてはならない。成功とは何かを理解すること、動機や希望のレベルを高く持つこと、新しい効果的なしかたで反応することができて初めて、彼女たちは人生を自分がコントロールすることを学習できる。(59ページ)


◇虐待に見られる明確な三つのサイクル

  • 虐待サイクルは一つの明確な相からなっており、それぞれの相で時間と程度が異なる。ひとつのカップルは三つの相からなるサイクルを持っており、時間と程度はカップルによって違う。三つの相は、緊張が高まる第一相、爆発と虐待が起こる第二相、穏やかな愛情のある第三相という繰り返しである。(60ページ)


◇バタードウーマンが必要とする環境

  • バタードウーマンは、自分でものごとを決定できるようになる前に、一時的に完全に彼女を支えてくれる環境を必要とする。セイフハウス、緊急入院、長期の心理療法がこれにあたる。安全を期するために、第三の介入が緊急に必要になる場合もかなりある。これらの女性たちは安全を確保する条件が揃わなければ現実的な判断が不可能でありたとえ判断してもそれに従て行動できないと思われる。・・・。しかし多くの女性は自分の生活を自分だけで面倒みることが恐くて、もとの暴力的な関係に戻ってしまう。ただしそういう女性でも、もし許されれば再ぴ暴力的な状況から簡単に逃れて、また安全な環境に戻ってくる。女性たちはこの行きつ戻りつを三回から五回繰り返してようやく、完全に男性から自分を切り離すことが可能になる。(174ページ)


◇バタードウーマンに必要なのは女性の心理療法

  • 私は、現時点では、バタードウーマンの治療にあたるのは、女性の心理療法家だけであるべきだと言いたい。バタードウーマンはレイプの犠牲者とよく似ており、彼女たちが経験から受けた傷を理解できるよう訓練された女性の治療家の方が、適切に応答を引き出すことができる。彼女たちは、他の女性を有能な確固たる専門家として信頼することを学ぶ必要があり、一方女性セラピストはバタードウーマンのロールモデルになることで治療を促す。こうすることによってバタードウーマンたちは他の女性たちと問題を分かち合えるようになり、この結果治療が進む。(205ページ)


心理療法において必要な態度と価値観

  • 今日心理療法は、犠牲化の影響にも取り組み始めた。バタードウーマンとその家族に対処するには特殊な心理療法の訓練が必要とされる他、適切な心理療法をするための適性が要求されるが、次のような態度と価値観が不可欠なものである。
    • 一 犠牲になった女性を支援する。
    • 二 虐待の人間関係についてステレオタイプの神話を信じない。
    • 三 地域にある支援体制の価値を認める。
    • 四 新しい支援体制の設立に進んで協力する。
    • 五 慣れないクライエントのために、面倒な役所の手続きを手伝ったり、簡単にするよう協力する。
    • 六 他の専門家と協力しあう。
    • 七 自分自身の、暴力への恐怖に対処する。
    • 八 社会制度や慣例がいかに女性を圧迫し、女性の犠牲化を促したか理解する。
    • 九 進んで患者のロールモデルになる。
    • 一〇 複雑なケースでも積極的に対処する。
    • 一一 準専門家の仕事を認める。
    • 一二 自分自身の怒りのはけ口を見付けられる。
    • 一三 患者の怒りの感情を認める。
    • 一四 恐ろしい話や残酷な出来事を聞くことができる。
    • 一五 患者をせかせることなく、彼ら自身が問題に取り組むのを見守ることができる。
    • 一六 患者がもとの暴力関係に戻った時、怒らないで認めることができる。
    • 一七 人々の変化する力、成長する力を尊敬し信じることができる。 (219〜220ページ)

■読後感
DVに関する古典的著作であり、被害女性や加害男性の実態や、暴力のサイクル、シェルターや心理療法の必要性が説かれている。これらは現在でも通用する考え方であるが、日本の実態に必ずしもなじむとは思われない部分もある。