K.ポランニー『人間の経済1(市場社会の虚構性)』岩波現代選書、1980年6月

人間の経済 1 (岩波現代選書)

人間の経済 1 (岩波現代選書)

■内容【個人的評価:★★−−−】

◇人間の生活について、市場により説明できる部分は限定されている

  • われわれのいう経済学上の誤謬とは、人間の経済をその市場形態にひとしいものとする傾向より成るものである。したがって、この偏向を取り除くには、「経済的」という言葉の意味の徹底した分類が要求される。このことはまた、あらゆる不明瞭さが取り除かれて形式的意味と実体=実在的意味とが別々に設定されない限り、不可能である。それらを複合概念として通常用いられる一語に圧縮するならば、二重化された意味は補強され、かの誤謬はほとんど攻撃不可能なものとなってくるにちがいない。(61ページ)


◇経済の理論的分析が進むにつれて市場のみ着目されるようになった

  • 理論的分析が強調されてくると経済制度の社会学、原始経済の研究、あるいは経済史など経済的なものを扱った他の諸分野はおなじく人間の暮らしの研究にたずさわるものでありながら必要のないものとして、完全に見向きもされなくなった。「経済的」のふたつの意味における通約不可能な特異性が発見されるやいなや、実体=実在的意味は捨て去られ、形式的意味のほうが取り入れられたのである。(67ページ)


◇再分配は中心性が不可避

  • 再分配は−物理的であれ、単に管理処分的であれ−、中央への運動とこれに伴う外への運動とを生じさせるような仲介物なしには起こりえない。だから、ある程度の中心性が不可避である。中央の組織は、政治的ばかりか経済的にも、必要である。トロブリアンド諸島では初期国家は防衛や階級規制の機関というよりも再分配的な設備なのである。(97ページ)


◇本来、交換は非利得的なもの

  • 交換は人間の絆の中で最も不安定なものであり、共同体の妥当性に役立つものとされたときに、その経済に拡がっていった。要するに、経済的取引は非利得的となりうるときに、可能となったのである。(127ページ)


◇対外交易は対内交易に先んじて生じる

  • マックス・ウェーパーが、経済諸制度の起源に関する画期的な業績のなかで明らかにしたことは、対外交易は対内交易に先行するということ、貨幣の交換手段としての用法は対外交易の領域で生じるということ、また、組織化された市場はまず最初に対外交易において発展するというごとであった。(155ページ)


◇交易の主要な三類型

  • 交易とは平和で二方向的な活動であり、その質を保証するためにある特定の組織形態を必要としている。二方向性の原理にもとづいて、三つの主要な交易の型がある。すなわち、贈与交易、管理交易または条約交易、そして市場交易である。(180ページ)


◇交換の場としての市場は、競争の場としての市場に先んじている

  • 明らかに、場所としての市場のほうが、需要・供給型の競争メカニズムより先に生まれている。西ヨーロッパに価格形成市場という自己調整システムが展開して全地球の大部分に拡がったのは、東地中海の穀物の分配を容易にするメカニズムとして、市場がはじめて目に見えるかたちで出現してから二千年ほど後のことであった。(230ページ)

■読後感
市場は、人間の暮らし全体の一部として、競争の場としてではなく共同体の平和を保つために行われた活動であったことを説明している。
視点として非常に興味深いが、没後にまとめた論考の集成ということもあり、首尾一貫しているとも言い難い面があった。