橋本智子、谷本惠美、矢田りつ子『Q&Aモラル・ハラスメント』明石書店、2007年12月

Q&A モラル・ハラスメント

Q&A モラル・ハラスメント

■内容【個人的評価:★★−−−】

モラハラとは

  • 近頃、テレビや雑誌、新聞で何かと取り上げられている「モラハラ」とは、フランスの精神科医マリー=フランス・イルゴイエンヌによって提唱された概念です。言葉や態度で相手の人格を繰り返し執拗に傷つけ、その恐怖や苦痛によって相手を支配し、思い通りに操る暴力のことをモラハラといいます。モラハラは「いじめ」「精神的虐待」「言葉の暴力」などと和訳されてきましたが、その実態は暴力による支配にほかなりません。(8ページ)


◇暴力の目的とは

  • 加害者は、あなたに言うことを聞かせるために、あなたを言葉や態度でぼろぼろに傷つけます。あなたは傷つくのが怖いから、その苦痛を避けるために、自分の感情や意思を押し殺して相手の言うとおりにします。相手の一挙手一投足どころか、目の動きひとつにも神経を張りつめ、怯え、一喜一憂するようにもなるでしょう。怖いから、相手の言うとおりにする。苦痛を避けたいから、相手の思いどおりに動く。これが、「暴力」の正体です。あなたを怖がらせたり、苦痛を与えることによって、あなたを思いどおりにコントロールし、支配する。これが、「暴力」の目的です。(13ページ)


◇加害者の攻撃

  • 加害者の攻撃は、必ずしもはっきりした罵倒や叱責という形をとるとは限りません。口調だけは静かに穏やかに、そして執劫に、あなたを責め立てることもあります。あなたが何を言おうとも、相手はあなたの言葉をことごとく否定し、あるいは揚げ足を取り、巧みに話を逸らせながら、いかにあなたが悪いことをしたか、いかにあなたが至らないかを延々と諄々と説きます。決して言葉を荒げることなく。(28ページ)


モラハラは病気ではなく、巧妙な支配のかたちである

  • もしもモラハラが病気によるものだとしたら、場所も相手もお構いなしに、「暴力」をふるっているはずです。しかし、モラハラ加害者はそうではありません。外面がよく、人前では「いい人」として振舞うことができる人です。自分より「力」のある者に対しては、いい顔をしています。加害者が被害者に対するモラハラをやめないのは、とどのつまり、その方が楽ができるし、得だからです。自分の言いなりになる配偶者を従えていると、偉くなった気分が味わえます。自分が特別優れた人間であると感じることができます。少し脅せば、お金でも時間でも性でも、どんどん差し出すので、とても便利に使うことができます。(42ページ)


◇子どもを利用した暴力

  • 加害者はまた、被害者にダメージを与えるために平気で、子どもを利用します。加害者にとって子どもは、愛情を注ぐ対象では決してなく、支配の対象そのもの、またはあなたを支配するための道具でしかありません。子どもを使って被害者を攻撃させることが、被害者にとって耐え難い苦痛であることを、加害者はよく知っています。たとえば、子どもの目の前で被害者をパカにし、自分と一緒になって被害者をいじめることを子どもに強要します。また、子どもを仲間に引き込むことによって被害者を孤立させます。子どもが加害者の命令を拒むと、今度は子どもに対して直接的な攻撃を加えたり、日の前で被害者(親)が痛めつけられるのを見せつけます。子どもが複数いる場合、加害者はことさら順位や優劣をつけ、1人の子どもだけに攻撃を加えたりもします。そんな中で子どもは、被害者である親を庇うために、あるいは自分の身を守るために、加害者親に媚びることを覚えたりもします。攻撃されているきょうだいを救うのではなく、一緒になって攻撃したりもするのです。(46〜47ページ)


モラハラ加害者は自己の内面に向き合うことを拒否する

  • モラハラ加害者は、自己の内面と向き合うことを一切拒否し、自ら処理すべきすべての葛藤をあなたになすりつけることで自己を維持してきた人たちです。彼らは常に自分が正しくなくてはならず、常に理想的な自分自身を見ていたい人たち。そのためにあなたを悪者にし続け、時にストレス解消用のサンドバッグに、時に己の優越感を満たすための踏み台にと、あなたを便利な道具のように扱ってきました。(56ページ)


◇カウンセリングとは、その効果が発揮できる状態とは

  • カウンセリングは主にクライアント(カウンセリングを利用する人)の話をじっくり聞くという過程をもってクライアントの抱える悩みの形を明らかにし、クライアント自身の力で問題を乗り越えられるようサポートする場です。投薬治療は行いませんし、行えません(薬を処方するという行為は医師にのみ認められています)。カウンセラーのサポートを受けながら、じっくりと自分を見つめていくカウンセリングという作業は、行動様式や性格、考え方の癖を見つけることに一役買うでしょう。しかし、カウンセリングはクライアント本人が「自分を見つめたい、知りたい、変えたい」と思っていて初めて、その効果があるものなのです。モラハラ加害者自身が「自分を見つめたい、知りたい、変えたい」と思っていない限り、カウンセラーも彼らを変えることはできません。(61ページ)
  • カウンセリングとは、クライアントが意思決定を自分で自信を持ってできるようにサポートする場と言えるでしょう。人にはそれぞれの生き方、価値観があるということを尊重し、問題の答えやそれを解決する力はクライアント自身が持っているという考えのもと、心理学的知識と技術を使ってその人にふさわしい働きかけをし、その力を引き出す作業をお手伝いするのがカウンセラーです。ですから、通常はカウンセラーが自分の価値観や理論を押しつけたり、助言したり、善悪の判断をしたりはしません(してはいけません)(80ページ)


モラハラ父(母)を慕っている子どもに対しては

  • 「子どもはお父さん(お母さん)が好きなんです」「子どもを遊びに連れていってやる良い父親(母親)で、子どももなついているんです」子どもから片端を奪うことになることが忍びなくて」。モラハラ加害者と離れられない理由に子どものことを持ち出す人はとても多いです。しかし、本当に今の環境が子どものためになるでしょうか。親の姿から子どもは多くのものを学びます。子どもに直接暴力を振るわないとしても、子となもの前で、暴力を振るったり、自分の都合で、もう片方の親を攻撃したりする親が、子どもが育つ環境について、子どもに与える影響について著しく配慮が足りないそんな親が、本当にいい親だと言えるのでしょうか。彼らが本当に子どものためを考える「いい親」ならば、まずはあなたに対する暴力をやめ、安全で愛情にあふれた家庭を築く努力をすべきです。(96ページ)


◇親権と監護権

  • 離婚(別居)によって離れて暮らすことになった親のことを、本文では「非監護親」と呼んでいます。「非親権者」と呼んでもいいのですが、厳密には、親権者と監護権者は必ずしも一致しないことがあるため、正確を期して、私たちは「監護親」「非監護親」という言葉を使うのが一般的です。親権の内容は大きく分けて1監護権と2財産管理権の2つです。監護権とは文字どおり子どもと生活を共にして実際に養育する権限のことですから、現実の生活に即して考えれば、親権と監護権とはほぼイコールです。財産管理権はいわば形式的な権限に過ぎません。ただ、ごくまれに、たいがい親権争いの妥協の産物として、監護権だけを親権から切り分けて、親権者は父、駐護権者は母というように合意または指定されることがあります。もちろんこのようなことは、相手がモラハラ加害者の場合には絶対に避けるべきことはいうまでもありません。なお、離婚前の別居状態の場面においては、法律上夫婦2人とも親権者ですから、事実上子どもを監護している・していない親という意味で、「監護親」「非監護親」という言葉が使われます。(183ページ)

■読後感
明快に分かりやすく、モラハラ被害を受けている被害者の視点でどのように加害者に対峙すべきかを説明している。身体的暴力も精神的暴力も相手を支配しようとする力が表出したものとしてとらえている。そして、場合によってはこの精神的暴力=モラハラの方が被害者の心に深いダメージを与えることについて警鐘を鳴らしている。