森茉莉『記憶の絵』ちくま文庫、1992年2月

記憶の絵 (ちくま文庫)

記憶の絵 (ちくま文庫)

■読後感
森茉莉さんというと、森鴎外の長女で、若くして結婚してパリに在住し、その文章が三島由紀夫に高く評価され、という華やかな一面がすぐに思い浮かぶ。一方では、(料理を除き)家事全般が苦手で、一人住まいの部屋はゴミ屋敷と化し、親族も手を焼いていたという面も思い出される。

このエッセイでは、森茉莉さんが持っているその両面が顔を出していて興味深く、美しかったパッパ(鴎外)との団子坂での暮らしから、夫とのパリでの生活、そして友達に借金を繰り返す暮らしまでが綴られている。

とくに、このエッセイに収められた「陸軍省の木陰道」は、職場の父親を訪れた記憶を美しく描いています。また、パリの生活なども興味深く読みました。(「巴里のバレ・リュッス」:バレエ・リュスをリアルタイムで見ていたとは。)

なにか、明治の人でありながら、厳めしい感じがなくて、美しさに心を惹かれつつ、生身の自分をさらけ出しているような人でした。