東嶋和子『水も過ぎれば毒になる』文春文庫、2015年11月

 

水も過ぎれば毒になる 新・養生訓 (文春文庫)

水も過ぎれば毒になる 新・養生訓 (文春文庫)

 

 

■内容【個人的評価:★★★--】

◇ 一日一万歩は根拠がない
  • 芳賀さんは、国が勧める一日一万歩」は根拠がないと一蹴する。「中高年にはオーバーワーク。一日二十分の楽な運動で呼吸や心臓の機能は十分高めることができる」というのだ。うれしいことに、有酸素運動は二十分以上続けないと脂肪が減りにくいといわれていたが、最近の研究では、五分を四回のこま切れ運動でも効果は変わらないとわかった。(20ページ)
◇小動きは養生の要術
  • 「家に居て、時々わが体力の辛苦せざる程の労動をなすべし」と、貝原益軒翁も小動きを勧めている。「家事を人に任せずに、しばしば立ってわが身を運用しなさい。 自分で動けば、思い通りだから早く整い、人に任せる心労もない。常に労働すれば気血がめぐって、食気が滞らない。養生の要術である」と。(24ページ)
◇ 早寝早起き、飲食は少なく
  • 「寝る時でないのに眠ると元気を損なう。よく養生する人は早く起き、夜半に寝て、昼間は寝ず、常に努めて怠らず、睡眠時間を少なくして心気を潔くし、飲食を少なくして腹をきれいにする」と。(33ページ)
◇おもひ、慾、飲食、言語を少なくせよ
  • 益軒翁は「養生の四寡」として、次の四つを少なくせよと説く。 「おもひをすくなくして神(心)を養ひ、慾をすくなくして精を養ひ、飲食をすくなくして胃を養ひ、言をすくなくして気を養ふべし」と。 「言語をすくなくして、気をうごかすべからず。つねに気を膳の下におさめて、むねにのぽらしむべからず」とも語る。 言葉が口をついて出る前にぐっと腹におさめ、ゆっくり息を吐いて、「これはそれほど重大な問題か?」と問い直すといいだろう。息を吐いている間は少なくとも、言葉は出ないはずだ。(47ページ)
◇がんの原因 はたばこと食事
  • 結論からいうと、がんの原因の一位はたばこと食事。ともに三○%ずつを占める。 運動不足や遺伝、ウイルスなどは五%、アルコールは三%、環境汚染、紫外線などは二%しか寄与しない。 つまり、喫煙せず、食事に気を配れば、がんは六割予防できる。ただし、コレでがんを防げる」という食品は見つかっていない。(84ページ)
◇ 晩食は少なきがよし
  • 糖尿病になりやすい倹約遺伝子をもつ日本人に対し、三百年も前から「夕食は少なく」と説いたのが、貝原益軒翁である。 とどこおり「夕食は朝食より滞やすく消化しがたし。晩食は少きがよし。かるく淡き物をくらふくし」と『養生訓』にある。(90ページ)
◇ねむるに口をとづべし
  • 益軒翁は、「ねむるに口をとづべし。口をひらきてれむれば、真気を失なひ、又、牙歯早くをつ」と説く。口をあけて寝ると精力がなくなり、歯が抜ける、と踏んだり蹴ったり。 かくいう益軒翁は、床に入ると両足を伸ばし、いざ寝ようとする前に両足を折り曲げて脇を下にした。「獅子眠」と呼ぶ側臥位である。「仰向けで寝ると気がふさがって苦しめられる」というのが、その理由。(164ページ)
◇断捨離の効果
  • 片づけが心身に与える影響について科学的根拠は見あたらない。とはいえ、貝原益軒翁が支持するからには真実が含まれているのだろう。 「外境いさぎよければ、中心も亦是にふれて清くなる。外より内を養ふ理あり。故じんあいはらに居室は常に塵湊をはらひ、前庭も家僕に命じて、日々いさぎよく掃はしむくし。 みづからも時々几上の俟をはらひ、庭に下りて、箒をとりて塵をはらふべし。心をきよくし身をうごかす、皆養生の助なり」と、『養生訓」にある。(176ページ)
◇ 居所、寝室は、つねに風・寒・暑・湿の邪気をふせぐべし
  • 「居所、寝室は、つねに風・寒・暑・湿の邪気をふせぐべし。風・寒・暑は、人の身をやぶる事、はげしくして早し。湿は、人の身をやぶる事、おそくして深し。故に、風・寒・暑は、人おそれやすし。湿気は人おそれず。人にあたる事ふかし、故に久しくして癒えず。湿ある所を、早く遠ざかるべし」(222ページ)

■読後感

江戸時代に記された健康法が、ほぼ現代でも通用してしまうところが面白い。健康知識が行きわたるのとそれが実践されるかどうかは別の問題なのだということがよくわかる。どんなことでもそうだが、意識せず実行できるように、習慣化できるかどうか、というところがミソなのでしょう。