KAWADE夢ムック『マリア・カラス = MARIA CALLAS : 伝説から神話になったディーヴァ : 永久保存版』河出書房新社、2014年9月

 

 

■内容【個人的評価:★★★--】

◇カラスの本格的な活動 のはじまり
  • 本格的な活動は一九四七年で、ポンキエッリ《ジョコンダ》のタイトル・ロールを、トゥリオ・セラフィンの指揮で歌ってイタリア・デビューしてからだった。 カラスを見い出し、世界的なキャリアへの道を開いたのはセラフィンだ。当時すでにセラフィンは、トスカニーニの後継者としてイタリア・オペラを背負って立つ大指揮者と認められていた。 ヴェローナの後、ヴェネツィアのフェニーチェ歌劇場でワーグナートリスタンとイゾルデ》のイゾルデに抜擢したのがセラフィンだったし、これから世に出るカラスの後押しをしたのもセラフィンだった。(3ページ)
◇ カラスの全盛期はほんの十数年
  • だが一九六〇年代に入るころから、カラスのまるで火が燃え広がるかのような勢いは、急速に収まってゆく。実はカラスが第一線で歌っていたのは、ごく短い期間だった。ヴェローナでのイタリア・デビューが一九四七年で、最後にオペラの舞台で歌ったのは六五年のロンドン、コヴェント・ガーデン王立歌劇場の《トスカ》だ。 しかもその間に一年以上の中断期間がある。 ほんの十数年だけ。多くの歌手が新人から、ようやく芽が出るかな、という期間だ。 オペラを変えるには、それで十分だったということなのだろう。(8ページ)
◇ カラスの声はベルカントの通念から逸脱した頭声
  • あの声とはなんなのかというと、結局、普通の胸とかお腹で締麗によく響かせている声じゃないってことですよね。 いわゆるベルカントの通念から逸脱している声です。これはどなたでも仰ることだと思うけど、カラスというと頭声、頭で鳴らす声。 もちろんそれだけじゃないんですが、かなり特徴があると思います。 (16ページ)
◇ カラスの演技スタイル
  • カラスは芝居がうまいかどうかという議論があるけれど、それとは別に、そういうことよりもカラスがカラスなりに確立した一種のステージ上のグランド・スタイルみたいなものがあると思うんです。 それはいわゆる十九世紀風のグランド・スタイルをカラス流に近代化したというか、リファインしたというか、新しい現代感覚を加えたということではないでしょうか。 パゾリーニの映画に出ても全然おかしくなかったというのもその表われだと思うんです。 歌唱の問題にしても、基本的には彼女のアプローチはオーソドックスですよね。(25ページ)
◇カラスとプッチーニ
  • つまり、カラスにとってプッチーニの音楽は演出過剰なんで、作曲家があそこまで演出してしまっているものだから、カラスには興味が持てなかったんだろうと思う。(29ページ)

■読後感

 カラスの「浄き女神」を改めて聞くと、やはり通常のベルカント唱法とは異なるざらつき、ひっかかりが強烈な印象を残す。

カラスは、この書でも取り上げられているように、20世紀最大のディーヴァと言われながら、他の歌手とは異なるスタイルでこれを確立したのだ。

しかし、それは一方で破滅的なものであって、長く第一線で歌い続けられる性質のものではなかった。