中田亨『「事務ミス」をナメるな!』光文社新書、2011年1月

 

「事務ミス」をナメるな! (光文社新書)

「事務ミス」をナメるな! (光文社新書)

 

 

■内容【個人的評価:★★★--】

◇ミスを犯すのは素人だけではない
  • このように考えてみると、ミスに対する考え方を修正すべきだとわかります。
    ① 「能力が無いからミスをする」ではなく、「むしろ能力の副作用でミスをする」へ
    ② 「ミスの大半は素人がしでかす」から「玄人のミスも警戒すべき」へ
    ミスの原因を、作業者個人の能力不足に求めることは、あまり適切ではないのです。 あの熟練者がミスするとは」という事態も多く起こっていることを、軽視すべきではありません。 作業者個人の能力の優劣ばかりに目を奪われずに、職場の体制を改革することでミスの鎮圧を目指すことが、企業のミス対策のあるべき姿と言えます。(27~28ページ)
◇ 仕事の不確かさを問題の無い範囲に収める
  • 世の中の事象は全て不確実性を帯びていますから、事務の仕事も不確実性を前提として受け入れ、それに対応できるように臨機応変に進めるべきです。あらかじめ決められた手順を機械的に実施するだけのマニュアル人間には実際の仕事はこなせないのです。 不確かさを意識すれば、事務の各工程が果たすべき任務は、「仕事の不確かさを問題の無い範囲内に収めること」と言えます。 (60ページ)
◇ 事務ミスを防げる人とは
  • 気付いた時には手遅れになってしまう潜在的な不良を、自分の工程で検知し、食い止め、事故が起こらないように不確かさを圧縮する人こそが、事務ミスを防げる人と言えます。 (62ページ)
◇仕事の「確実性」と「便宜性」との間にはトレードオフの関係がある
  • 仕事の「確実性」と「便宜性」との間には、トレードオフの関係が成り立っているのです。 業務が複雑化すると、ミスの余地が広がるので「確実性」を減らしますが、一方で、「便宜性」を向上させます。 したがって、トレードオフをどう調整するかが論点になります。 事務ミスが多いと嘆く前に、そもそも、わが社はどの程度の便宜性と確実性を欲しているのか、ということを、再検討しなければなりません。 安全を重視して仕事の便宜性を犠牲にするべきか、便宜性を優先してミスの発生をある程度甘受するか。 どちらが良いかは一概には言えません。 新米の作業者でもできるように仕事を画一化して、ミスを鎮圧する戦略もひとつの選択です。逆に、ミスがやや多くてもそのロスは甘受して、仕事の便宜性を高く保っていくという判断もありえます。 便宜性も確実性も両方とも欲しい場合には、技術水準を上げることに挑戦しなければなりません。(71~72ページ)
◇ 異常に気付くことの重要性
  • 後戻りできる段階で異常に気付けば、人はただちに危険を回避しますから、事故が起こることはありません。 異常検知力が不足すると事故に直結します。それゆえ、異常検知力を最優先で整備するべきなのです。 やり直しがきく範囲内で、異常に気付くチャンスを与えることが、ミス対策の最大の要点なのです。(94ページ)
◇教えることこそ熟達への近道
  • 「人は教えている時に学ぶ。」(セネカ) 
    これは仕事においても成り立ちます。 大きなミスの総験は無いのに、極めて熟練できている人には、決まって人に仕事を教えた経験があります。 他人の仕事のやり方、間違え方を客観的に見ることで、仕事の要点を理解できるのです。(135ページ)
◇ 手順を整列させることが手戻りのない適切な仕事につながる
  • レストランで、コックがハンバーグを作ってから、客に注文を聞いたとします。 客がハンバーグを注文してくれれば良いのですが、別の料理を注文した場合には、ハンバーグは無駄になります。つまり、注文取りの手順より先に、調理の手順が来てはならないのです。 他の手順の決着を待たなければならない手順を、先走って着手してはいけません。 調理の手順も注文取りの手順も共に完壁にできたとしても、手順そのものが前後してしまうと、ハンバーグはムダになってしまいます。 つまり手順の並べ方こそがミスなのです。 原因が先で結果が後であるという道理を、科学用語では「因果律」といいます。 ものの順序をわきまえない奇妙な手順は、結果に関する手順を先走って前に置き、原因に関する手順を出し遅れるなどして、因果律を破っているのです。(143ページ)
◇仕事では締めくくりにアクセントを持たせる
  • 仕事がばらばらと終わる方式ですと、末尾手順のすっぽかしが起こってしまいます。 「みんなで一列になって飛行機を見送るまでは、まだ終わっていないぞ」と達成感を保留させることで、注意力を保たせているのです。 締めくくりにアクセントを置くことは、昔から行儀作法で指摘されてきたことです。 部屋から退く時は、背を向けてすたすたと出て行っては行儀に適いません。 戸口まで来たら、室内に振り返り、一礼して辞するのです。(155ページ)
◇ 見られている感覚が頑張りにつながる
  • 仕事場をオープンにして、いつでも上司や同僚、第三者に自分の仕事を見られる可能性を作り出しておくと、「見られているかも知れない」という緊張感を作業者に持たせます。 これを「評価懸念」といいます。 評価懸念が常に存在しているならば、「見られても恥ずかしくない仕事をしよう」と思います。(192ページ)
◇ 報告書作成にあたってのチャーチルの指示
  • ○どの文書も1ページ以内に納めること(書ききれない場合は、詳細情報へのアクセス方法を付記すればよい)。
    ○要点を箇条書きする。
    ○明確に言い切ること(何をすれば良いのかが暖昧な指示や、「ご参考まで」の情報を書かない)。
    チャーチルの指示は、新聞の作り方と同じです。新聞では、どんな大事件であっても、わずか10文字以内で表そうとします。10文字を超える大見出しはほとんどありません。 もちろん、大見出しだけでは情報が足りませんから、その脇に20字弱の小見出しを付け、さらに脇に百字程度の要約文(リード)を添えます。 最も詳細な情報は本文に書きます。(201ページ)

■読後感

「事務ミス」は、あからさまなミスばかりではなく、誤ってはいないが分かりにくい、なども含まれるものである。 仕事は、意思決定してこれに基づいて作業を行い、という一連の手順からなるが、意外にも進んだ段階で初めに手戻りせざるを得ないことがある。 これを防ぐためには、一つひとつのステップを確実に履行して進むという、明確な流れを踏んでいく必要がある。

完全な仕事はあり得ないが、手ひどい誤りにつながらないような対応が求められている。