重田眞義「心地よい睡眠の心得を教えます」(『文藝春秋』平成29年10月号)、2017年9月

 

文藝春秋 2017年 10 月号 [雑誌]

文藝春秋 2017年 10 月号 [雑誌]

 

 

■内容【個人的評価:★★★--】

◇ 日本の成人の約二割は不眠に悩まされている
  • 日本の成人のおよそ二割、が慢性的な不眠症状に悩まされているという統計結果があります。私は、こうした症状のことを睡眠文化研究の立場 から「眠れない症候群」と呼んでい ます。よく眠れない。睡眠を改善したい。気持ちよく眠れるようになりたい。このような願望を抱いている人は非常に多いのです。(326ページ)
◇ アフリカにおけるフィールドワークから
  • 私は四十年近く、アフリカ、特にエチオピアで、農村部に暮らす人々の研究をしてきました。フィールドワークを通じ、彼らが広大で豊かな 自然資源のもとでどのように生業を活発化させてきたかを目の当たりにしてきました。アフリカの人たちの営みは、平和で豊かな創造性に満ちています。そして、睡眠も、その例外ではありませんでした。(327ページ)
◇ アフリカの人々は太陽のリズムで生活している
  • 日本も含め大抵の国の人々は「定時法」つまり、時計の針が指す時間に縛られて行動をしています。当然、睡眠時間もそれに沿って決まります。しかし、彼らは、腕時計をして時間は把握しているものの、時間による制約よりも、日の出・日の入りを基準にした一日の生活リズムに重きを置いていたのです。(328ページ)
◇日本における社会的課題としての不眠
  • 翻って日本には、「眠れない症候群」に陥っている人が多い。そして、驚くべきことに、不眠や睡眠障害は日本経済に年間約三兆円もの損失を与えている、というデータも公表されています。そういう意味でも、「不眠の解消」は、私たちにとって解決すべき重要な社会課題になっているのです。(328ページ)
◇ よく耳にする睡眠の常識の盲点
  • 巷間よく耳にする ”睡眠の常識”をいくつか挙げてみましょう
    ・一日七時間は寝るべき
    スマートフォンブルーライトは、就眠の妨げになるので見ないほうが良い
    ・眠る前に体温を高くすると寝つきが悪くなる
    ・睡眠効率が悪くなるから午後六時前後は寝てはいけない
    ・どうしても眠れない時には睡眠薬を飲めば良い
    こうした言説にはすべてエビデンスがあります。 しかし、一方で、これらは、睡眠から「自由」を奪っているという側面もある。(328ページ)
◇ 不眠を解消するための第一歩
  • 不眠を解決するための第一歩は、 「自分の睡眠には問題があるんだ」 と思いこむことによるストレスを和らげてあげることだと私は考えてい ます。眠れない人には、「あなたの眠りは間違っていない。そのままでいいんだよ」と肯定的なメッセージ を送ってあげることが重要なのです。一般的な”睡眠の常識”に自分の眠りが当てはまっていなくても、どんな睡眠のスタイルであっても、それが眠りの個性です。(329ページ)
◇ 眠り小物や就眠儀礼
  • 「眠り小物」や「就眠儀礼」というもので、よりよい眠りを担保している人もいます。 旅行先で熟睡できなくて、「マイ枕」やパジャマを持っていくことで よく眠れるようになったという人。 服用するわけではなく睡眠薬を枕元に置いておくだけでよく眠れるという人。・・・無意識のうちに儀礼的な所作をも って就眠している人もいるかもしれ ません。「眠り小物」や「就眠儀礼」は、まさに睡眠が文化的営みであることを示しています。それらを見つけることが不眠解消の糸口になる可能性も十分ありえます。(331~332ページ)
◇ 眠りのスタイルは人それぞれ
  • 極論を言えば、「眠れないこと」 でさえ、容認してしまえばいいわけです。眠れないならば、無理に眠ろうとしなくても全く問題ありません。眠れなくて暇なら、トイレ掃除でもやってみたらどうですか。時間を有効活用できて良いですよ。そのうちに、必ずやアホらしくなって眠くなりますから(笑)。最終的にそれで眠れたのであれば、大いに結構なことですよ。(332ページ)

■読後感

「眠る」という行為は、意識してできることではない。意識がなくなって眠りにつくわけですから。 眠ろう眠らなきゃという意識は、眠りにあたっての障害にしかならない。 結局、眠っていないような状態でも何とかなるわけで、あまり意識しないことこそもっとも大切なことかもしれません。