恩田陸『夜のピクニック』新潮文庫、2006年9月

 

夜のピクニック (新潮文庫)

夜のピクニック (新潮文庫)

 

 ■読後感

この作品で主人公となる融と貴子は異母兄弟で別々の家庭で生活している。二人はこれまで関係を避けてきたが、同じ高校に入学し、最終学年には同じクラスに属することになり、とくに融は家庭の恥と考え、一切貴子と言葉を交わすことを避けている。

しかし、高校の年中行事である「歩行祭」で、友人たちも二人の関係を知り、まず語り合うことの大切さを伝え、偶然二人きりになった融と貴子は、短いが、それまでのわだかまりを解消するような言葉のやり取りをすることになる。

この作品は、高校生という年代で、少年から大人になっていく若者たちの考え方や心の動きをよく表現している。何か、悩んだり楽しんだりしながら、一つひとつ扉を開けて大人になっていく過程をよく表していると思います。

それに「歩行祭」という行事について、いつもは細切れの時間をあくせく生きている人間が、これだけ長い時間を「歩く」ということにより自分に向き合い考えを深めることができる、というところに大きな魅力を感じました。